2026年9月11日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
根管治療をそばで見ていると、患者さんからは「いったい何をしているんだろう?」と分かりにくい工程がいくつもあります。
その一つが、先生が歯の根の中へ細長い白いものを1本入れては抜き、また新しいものを入れては抜く場面です。
1本だけでは終わらず、何本も続けて交換していることもあります。
「あの白いものは薬なのかな?」
「最後に根の中へ詰めるもの?」
「どうして同じようなものを何本も入れているんだろう?」
治療中は口を開けたままなので、気になっていても聞きにくいですよね。
あの白い細長いものは、ペーパーポイントと呼ばれる根管治療用の吸水性の高い器具です。
主な役割は、根管を洗浄したあとに残っている余分な液体を吸収し、根管内が次の処置へ進める状態かを確認することです。
そして実は、先生はペーパーポイントを入れているところだけではなく、抜いたあとのペーパーポイントも見ています。
今回は、根管治療でなぜ白い紙のようなものを何本も使うのか、ペーパーポイントで何を見ているのかを、治療を見ている歯科助手の立場から整理してみます。
根管治療で使う白い紙「ペーパーポイント」とは?
ペーパーポイントは、吸水性の高い紙を細長い円錐状に成形した根管治療用の器具です。
根管治療では、歯の中にある非常に細い根管をファイルなどで形成し、洗浄液を使って清掃します。その洗浄が終わったあと、根管内に残っている液体を吸収するために使用するのがペーパーポイントです。
薬でも、最後に残す詰め物でもありません
見た目だけを見ると、根管治療の最後に使用するガッタパーチャポイントにも少し似ています。
しかし、役割はまったく違います。
- 根管を削る器具ではありません
- 消毒薬そのものではありません
- 根管内へ薬として残すものではありません
- 最終的な根管充填材でもありません
乾燥や確認に使用したペーパーポイントは、そのつど根管から取り出します。
一方、根管治療の最後に使うガッタパーチャは、シーラーとともに根管を充填するための材料です。
同じように細長く見えても、「削るもの」「吸うもの」「詰めるもの」では役割が違うのです。

ペーパーポイントにも太さや形があります
「紙なら、細ければ何でもいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、ペーパーポイントは根管治療用に作られており、製品にはさまざまなサイズやテーパーがあります。根管形成に使用した器具のサイズや根管の形に合わせて使えるペーパーポイントもあります。
近年の臨床研究でも、形成した根管のサイズに対応する滅菌ペーパーポイントを使用して根管を乾燥させ、その後に根管充填へ進む方法が用いられています。
つまり、ペーパーポイントは「紙だから、とにかく奥まで入ればいい」器具ではありません。
根管の長さや太さ、形成した形、治療の状況を考えながら使用します。
ペーパーポイントの前には根管を洗っています
ペーパーポイントが登場する前には、根管の中を洗浄しています。
根管は単純なストローのような一本の筒ではありません。主根管のほかにも、細かな凹凸や枝分かれ、器具が直接触れにくい場所があります。
そのため、根管形成だけでなく、次亜塩素酸ナトリウムやEDTAなどの洗浄液を使用して根管内の清掃を進めます。
根管洗浄については、以前の「根管治療で注射器から液を入れるのはなぜ?根管洗浄のしくみと次亜塩素酸ナトリウム・EDTAの役割」で詳しく解説しています。
そして、根管を洗浄すれば、根管内には洗浄液が残ります。
そこで次に登場するのがペーパーポイントです。
洗浄後に残った余分な液体を吸収し、次の工程へ進める根管内環境へ整えていきます。
なぜペーパーポイントを1本ではなく何本も入れるの?
ここが、治療を見ていて一番不思議に感じやすいところだと思います。
先生はペーパーポイントを1本入れて取り出し、また新しいものを入れます。場合によっては、これを何回も繰り返します。
最初の1本ですべての液体を吸収できるとは限りません
ペーパーポイントには吸水性がありますが、1本で根管内のすべての余分な液体を吸収できるとは限りません。
最初の1本を入れると、先端から広い範囲まで濡れて出てくることがあります。
そのペーパーポイントはすでに液体を吸収していますから、次は新しい乾いたペーパーポイントへ交換します。
すると、
- 1本目は大きく濡れていた
- 2本目は濡れ方が少なくなった
- さらに交換すると、ほとんど液体が付かなくなってきた
というように変化することがあります。
患者さんから見ると同じ作業を繰り返しているように見えますが、実際には新しい乾いたポイントへ交換しながら、根管内の余分な液体を少しずつ吸収しています。

濡れた1本を何度も使い回すわけではありません
一度液体を吸ったペーパーポイントを、そのまま何度も出し入れしているわけではありません。
根管内へ入れる器具ですから、清潔な操作が必要です。また、一度濡れたポイントより、新しい乾いたポイントの方が次に残っている液体を確認しやすくなります。
過去に複数メーカーのペーパーポイントを比較した研究では、同じ規格であっても吸水性能には製品間の違いがあることも報告されています。
つまり、「白い紙ならどれでも同じ」というほど単純ではありません。
「○本使えば終了」という決まりはありません
では、3本使えば乾燥完了なのでしょうか。
そうではありません。
根管の太さや長さ、形、洗浄液の残り方、出血や滲出液の有無などによって状況は変わります。
そのため、「5本使ったら終了」というような固定本数で判断するものではありません。
本数そのものよりも、取り出したペーパーポイントを見ながら、根管内の状態がどう変化しているかを確認することが大切です。
実は先生は「抜いたペーパーポイント」も見ています
治療中の患者さんから見えやすいのは、先生が白いペーパーポイントを根管へ入れているところです。
でも、診療室で横から見ていると、先生は取り出したペーパーポイントにも目を向けています。
確認するのは、単純な「濡れている・乾いている」の二択だけではありません。
どのくらい濡れているか
根管内に洗浄液などが多く残っていれば、取り出したペーパーポイントも大きく濡れます。
新しいものへ交換しながら、濡れ方が減ってくるかを確認します。
どの部分に液体が付いているか
ペーパーポイント全体が同じように濡れるとは限らず、先端側など限られた部分だけに液体が付くこともあります。
こうした付着の仕方は補助的な情報になりますが、ペーパーポイントだけを見て根管長や病変の状態を診断するわけではありません。
血液が付いていないか
ペーパーポイントに血液が付くこともあります。
ただし、「血が付いた=根管治療が失敗している」ではありません。
根尖付近の状態、組織からの出血、器具やペーパーポイントの到達位置など、複数の要因を考える必要があります。
歯科医師はペーパーポイントだけで判断するのではなく、症状、エックス線画像、根管内の状態などと合わせて評価します。
交換しても繰り返し液体が付いてこないか
根管の状態によっては、新しいペーパーポイントへ交換しても、根の奥から繰り返し液体が付いてくることがあります。
この場合も、「紙をもっとたくさん使えば必ずその日のうちに乾く」という単純な話ではありません。

何本交換しても根の奥から液体が出てくることがあります
根尖部に炎症がある歯などでは、透明あるいは少し赤みを帯びた液体が根管内へ繰り返し出てくることがあります。
歯内療法の文献では、このように滲出液が持続する状態が古くから「weeping canal(ウィーピング・カナル)」と表現されることがあります。
ただし、これは特定の一つの病名を示す診断名ではありません。
患者さんにとって大切なのは、「根管内は、洗浄液を吸い取れば必ずすぐに乾燥するとは限らない」ということです。
「もっと紙を入れれば終わる」とは限りません
何度ペーパーポイントを交換しても同じように液体が付いてくる場合には、根管内や根尖周囲の状態を改めて確認します。
必要に応じて、さらに根管洗浄を行ったり、その日は根管充填まで進まず、根管内へ薬を入れて次回へつなげたりすることがあります。
根管治療の途中で使用する薬については、「根管治療中に入れる白い薬は何のため?水酸化カルシウムの役割と薬だけでは治らない理由」でも詳しく解説しています。
つまり、ペーパーポイントを何本も使っているからといって、「先生が乾燥に失敗している」わけではありません。
根管内が次の工程へ進める状態なのかを、慎重に確認している場面でもあります。
最後のペーパーポイントが乾いて見えれば「完全乾燥」なの?
ここは、今回とても大切なところです。
最後に入れたペーパーポイントが見た目には乾いた状態で出てきたとしても、根管内の微細な部分まで水分が完全にゼロになったことを証明するわけではありません。
過去の研究では、臨床的には「乾燥した」と判断された根管でも、根尖側の根管壁などに水分が残っていることが確認されています。
そのため、ペーパーポイントが乾いたことは、あくまで根管内の余分な液体が十分少なくなってきたことを判断するための臨床的な目安の一つと考える方が正確です。
ペーパーポイントは「根管を完全にカラカラにする紙」ではありません
以前は患者さんへの説明として、「根管内の水分を完全に取り除く」「根管を完全に乾燥させる」という表現を使うこともありました。
しかし、現在使われている根管充填材料まで考えると、少し単純化しすぎた表現です。
根管充填に使うシーラーによって、水分との関係は同じではありません
根管充填では、ガッタパーチャだけでなく、根管壁との微細な隙間を埋めるシーラーを使用します。
そして、シーラーにはさまざまな種類があります。
研究では、根管象牙質に残る水分の程度によって、シーラーの接着強さが変化することが示されています。また、エポキシレジン系シーラーとカルシウムシリケート系シーラーでは、良好な結果を示す水分条件が同じとは限りません。
ですから、「根管は乾けば乾くほど、どんな材料でも必ず良い」と一括りにすることはできません。
バイオセラミックス系材料では微量の水分との相互作用もあります
現在使用されているバイオセラミックス系の根管充填用シーラーには、水分や体液との相互作用が材料の性質に関係するものがあります。
バイオアクティブガラス系根管充填用シーラーでは、根管象牙質とシーラーとの界面にある微量の体液と材料が接触し、ハイドロキシアパタイトの形成・成長を介して象牙質との結合へつながる機序も報告されています。
つまり、ペーパーポイントは「根管を完全な無水状態にするための紙」というより、
「洗浄後に残った余分な液体を吸収し、これから行う根管充填に適した根管内環境へ整えるための器具」
と考える方が実際の治療に近い説明です。

ペーパーポイントが乾いたら「細菌ゼロ」なの?
これも、とても大切なところです。
答えは、いいえです。
ペーパーポイントが乾いた状態で出てきたことと、根管内から細菌が完全にいなくなったことは同じではありません。
根管は単純な一本の筒ではありません
根管系には主根管だけでなく、象牙細管、側枝、フィンなど、非常に細かな構造があります。
研究では、ペーパーポイントを根管内細菌の採取に使うこともあります。
しかし、ペーパーポイントや採取器具が接触できる場所には限界があります。象牙細管や側枝などに存在する細菌をすべて回収できるとは限りません。
実際、歯内療法の微生物研究では、根管から採取した試料が培養陰性であっても、根管系全体から細菌が完全に消失したことを意味しないと指摘されています。
つまり、
乾燥確認と無菌確認は別です。
根管治療は「最後の1本の紙」で成功が決まる治療ではありません
根管治療では、根管形成、洗浄、必要に応じた根管貼薬、乾燥、根管充填、そしてその後の修復まで、複数の工程を組み合わせて治療を進めます。
ですから、「最後のペーパーポイントが乾いた=根管治療成功」ではありません。
ペーパーポイントは、根管治療全体の中にある大切な一工程を担当している器具です。
ペーパーポイントはどこまで入れるの?
治療を横から見ると、ペーパーポイントがかなり深いところまで入っているように見えることがあります。
「紙なら、根の先まで入ってしまっても大丈夫なの?」と思うかもしれません。
ペーパーポイントも、ただ深く入れればよい器具ではありません。
根管治療では、電子根管長測定器やエックス線写真などを利用しながら治療する範囲を確認します。ペーパーポイントも、根管の長さや形成した形を考慮しながら使用します。
歯内療法の文献では、ペーパーポイントなどに含まれるセルロースが根尖孔の外へ出て組織内に残った場合、長期間の異物反応に関与し得ることが報告されています。また、製品によっては使用時に微細なセルロース繊維が脱落する可能性も研究されています。
これは、通常のペーパーポイント使用そのものを怖がる必要があるという意味ではありません。
むしろ、「紙だから適当に奥まで押し込んでいるわけではない」ということです。
紙ではなく空気を吹き込めば早く乾くのでは?
「紙を何本も使うなら、空気をシュッと吹き込んだ方が早いのでは?」
これも自然な疑問だと思います。
しかし、根管の奥へ強い圧縮空気を送り込めばよいというものではありません。
歯科治療では、圧縮された空気が組織内へ入り込むことで皮下気腫を起こすことがあります。根管治療でも、根尖側へ不用意に加圧された空気を送り込まないよう注意が必要です。
歯科治療と皮下気腫については、「歯科治療中に急に顔が腫れた?皮下気腫が起こる原因と受診の目安」でも解説しています。
ペーパーポイントには、細い根管の中に残った液体を吸収し、そのまま外へ取り出せるという特徴があります。
単に「乾燥させるなら、どんな方法でも同じ」というわけではないのです。
根管洗浄からペーパーポイント、その次までを順番に見ると
根管治療全体の中で、ペーパーポイントがどこに登場するのかを整理してみます。
1.根管を形成する
ファイルなどを使用して、感染した組織や汚染物を除去しながら、根管を清掃・洗浄・充填しやすい形へ整えます。
2.根管を洗浄する
次亜塩素酸ナトリウムやEDTAなどを使い、機械的な器具だけでは対応しにくい部分も含めて清掃します。
3.余分な液体を減らす
吸引なども利用しながら、根管内に多く残っている液体を減らします。
4.ペーパーポイントを入れる
根管の長さや形成したサイズを考慮しながら、ペーパーポイントを使用します。
5.新しいペーパーポイントへ交換する
濡れたポイントを取り出し、新しい乾いたポイントへ交換します。
6.取り出したペーパーポイントを確認する
乾き具合だけでなく、血液や滲出液の付着なども必要に応じて確認します。
7.次の処置を決める
根管内の状態が整っていれば根管充填へ進むことがあります。
一方、滲出液が続いているなど、その日のうちに根管充填へ進まない方がよいと判断した場合には、追加の洗浄や根管貼薬を行い、次回来院へつなげることがあります。
根管治療の日に行っている処置全体については、「根管治療の日は何をしている?麻酔・隔壁・清掃・薬の交換の流れ」もあわせてご覧ください。

「何本も入れている」のは、同じことをただ繰り返しているわけではありません
治療台に横になっている患者さんからすると、
- 「また同じ白いものを入れている」
- 「さっきから何本使っているんだろう?」
- 「なかなか終わらないけれど、治療がうまくいっていないのかな?」
と不安になることがあるかもしれません。
でも、ペーパーポイントを何本も交換している場面には意味があります。
1本ごとに根管内の液体を吸収し、新しい乾いたポイントへ交換する。
そして、取り出したポイントの状態も確認しながら、根管内が次の工程へ進める状態になっているかを見ています。
外から見ると小さな白い紙ですが、根管治療の中では大切な役割を担っているのです。
よくある質問
Q.ペーパーポイントを入れると痛いですか?
ペーパーポイントそのものを根管内へ入れることが、必ず痛みにつながるわけではありません。
ただし、根尖部の炎症や根管内の状態、刺激される場所などによっては痛みや違和感を感じることがあります。治療中に強い痛みを感じた場合は、我慢せず歯科医師やスタッフへ伝えてください。
Q.何本使えば根管は乾きますか?
決まった本数はありません。
根管の太さ・長さ・形、残っている液体の量、出血や滲出液の有無などによって変わります。本数ではなく、根管内の状態を確認しながら判断します。
Q.最後のペーパーポイントが乾けば、その日に根管充填できますか?
乾燥状態は重要な判断材料の一つですが、それだけで決めるわけではありません。
症状、根管形成や洗浄の状態、出血や滲出液、治療計画などを総合して、根管充填へ進むか判断します。
Q.ペーパーポイントに血が付いたら治療失敗ですか?
血液が付いたというだけで、治療失敗とは判断できません。
出血の場所や量、根管や根尖部の状態などを確認し、他の所見と合わせて判断します。
Q.ペーパーポイントが乾けば細菌はいないのですか?
いいえ。
乾いたことは根管内の余分な液体が少なくなったことを判断する一つの目安ですが、細菌が完全にいなくなったことを証明するものではありません。乾燥確認と無菌確認は別です。
Q.ペーパーポイントは歯の中に残しますか?
乾燥や確認に使用したペーパーポイントは取り出します。
根管治療の最後に残すガッタパーチャなどの根管充填材料とは別の器具です。
Q.空気で乾かした方が早くありませんか?
根管の奥へ強い圧縮空気を送り込めばよいわけではありません。
根尖側へ空気を押し込むことによるリスクもあるため、根管の状態や安全性を考えながら適切な方法で余分な液体を除去します。
まとめ|何本も入れている白い紙には、一本ずつ意味があります
根管治療中に先生が何本も出し入れしている白いものは、ペーパーポイントです。
薬でも、根管内へ残す詰め物でもありません。
根管洗浄後に残っている余分な液体を吸収し、新しいポイントへ交換しながら根管内の状態を確認するために使います。
そして先生は、入れるところだけでなく、取り出したあとのペーパーポイントも見ています。
- どのくらい濡れているか
- どの部分に液体が付いているか
- 血液や滲出液が付いていないか
- 交換するにつれて乾燥してくるか
こうした情報も、次の処置へ進むための判断材料になります。
ただし、
ペーパーポイントが乾いた=根管内が完全に水分ゼロ
でもなければ、
ペーパーポイントが乾いた=細菌がゼロ
でもありません。
根管治療は、根管形成、洗浄、乾燥、必要に応じた根管貼薬、根管充填、そしてその後の修復まで、複数の工程を積み重ねて進める治療です。
診療中に「何をしているんだろう?」と思った小さな操作にも、それぞれ理由があります。
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