2026年10月11日

(歯科助手さんの治療見学ノート)

はじめに
こんにちは。ブランデンタルクリニックの歯科助手です。
治療を見学していると、「ジルコニア」という言葉を聞く機会がよくあります。
白い被せ物に使われる材料で、金属を使わず、強度も高い。私の中では、ジルコニアの被せ物というと、大きなジルコニアのブロックやディスクから機械で削り出して作るイメージがありました。
ところが、歯科材料について調べていると、今ではジルコニアそのものを3Dプリントして作る方法も研究され、実際の歯科修復物への応用が進んでいることを知りました。
そこで気になったのが、とても単純なことです。
「3Dプリントで積み重ねて作ったジルコニアは、削り出したジルコニアと同じくらい強いのでしょうか?」
新しい技術なのだから、もう削り出しと変わらないのでしょうか。
それとも、何層も積み上げて作るのだから、やはり削り出したものより弱いのでしょうか。
2026年9月30日、BMC Oral Healthに、この疑問を考えるうえで興味深い系統的レビューとメタ解析が公開されました。
論文の題名は、“Flexural strength, microhardness, and surface roughness of additively and subtractively manufactured zirconia: a systematic review and meta-analysis”です[1]。
25研究を採用し、そのうち20研究を使って曲げ強さをメタ解析した研究でした。
全体をまとめると、削り出しジルコニアのほうが曲げ強さは有意に高いという結果でした。
ところが、そこで話は終わりません。
同じ「3Dプリント」をDLPとSLAという方式別に分けて解析すると、DLPでは削り出しとの差が有意だった一方、SLAでは統計学的有意差が確認されませんでした。
ただし、ここも「DLPとSLAの強さそのものが統計学的に異なることまで証明された」という意味ではありません。
さらに、研究同士のばらつきを示すI²は、全体解析で92%。
今回の記事では、「3Dプリントジルコニアは弱いのか?」という一見単純な疑問から始めて、この25研究の結果を少しずつほどいていきたいと思います。
なお、これは特定の3Dプリンターや製品を評価する記事ではありません。また、当院で3Dプリントジルコニアを院内製作しているという意味でもありません。
今回は、現在発表されている研究から、「材料としての強さ」をどう読めばよいのかを見ていきます。

そもそも「削り出し」と「3Dプリント」は、作り方が反対です
これまで歯科用ジルコニアで広く使われてきたのが、subtractive manufacturing(SM:減算製造)です。
簡単にいうと、大きなジルコニアのブロックやディスクから不要な部分を削り取り、目的の形を残していきます。
一方、3Dプリントはadditive manufacturing(AM:積層造形・付加製造)です。
必要な場所へ材料を少しずつ積み重ねて形を作ります。
削り出しでは、工業的に作られた比較的均質なジルコニアブロックやディスクを使える一方、削り取られた部分は材料として使われません。
また、
- 切削工具が摩耗する
- 工具が入りにくい複雑な形を作りにくい
- アンダーカットなどに制約がある
といった特徴があります。
3Dプリントには、こうした材料ロスや形態上の制約を減らせる可能性があります。
主論文でも、削り出しには材料廃棄、工具摩耗、複雑形状へのアクセス制限などがあり、それに対する別の製造法として3Dプリントが発展してきたと説明されています[1]。
ただし、「3Dプリンターから歯の形が出てきたら、そのまま完成」というほど単純ではありません。
この話には、あとで戻ります。

今回の論文は、25研究をまとめた系統的レビュー+メタ解析です
今回中心に読むMishraらの研究は、PRISMA 2020に沿って行われ、PROSPEROにも事前登録されています[1]。
PubMed/MEDLINE、Scopus、Web of Scienceを検索。
データベースから770件、手検索から2件を見つけ、重複190件を除外。
580件のタイトル・抄録を確認し、64件を全文評価。
最終的に25研究が採用されました。
なお、原著の研究選択図には数字上の注意点があります。データベース検索770件と手検索2件から重複190件を除くと単純計算では582件ですが、原著は次の選別対象を580件と記載しています。この2件の差の理由は、確認した本文と図からは分かりません。本稿では、研究選択の件数は原著の記載どおりに紹介しています。
ここで、最初に確認しておきたいことがあります。
この25研究は、「患者さんに入れたジルコニアクラウンを10年間追跡した25研究」ではありません。
主な対象は、3Dプリントと削り出しで製作したジルコニアを直接比較する実験室研究や比較実験研究です。非比較研究、症例報告、総説などは除外されています。
つまり今回主に分かるのは、材料としてどのような性質を示したかです。
患者さんの口の中で何年間もつかとは分けて考える必要があります。

まず20研究をまとめると、削り出しジルコニアの曲げ強さが高くなりました
今回、曲げ強さについてメタ解析に使われたのは20研究です。
結果は、
- SMD=−0.64
- 95%CI −1.22〜−0.07
- P=0.03
でした[1]。
この論文の符号づけでは、負のSMDは3Dプリント群の曲げ強さが削り出し群より低い方向を示します。
したがって全体としては、削り出しジルコニアのほうが有意に高い曲げ強さを示したという結果です。
ここだけを見ると、「やっぱり3Dプリントのジルコニアは弱いんだ」と思ってしまいそうです。
私も最初は、そう読みそうになりました。
ところが、この結果のすぐ近くに、とても大きな数字があります。
I²=92%
です。
今回の記事では、この92%がかなり重要です。

「SMD=−0.64」は、0.64MPa弱いという意味ではありません
その前に、少しだけ統計の話です。
今回の全体解析では、単純なMPaの差ではなく、SMD(標準化平均差)が使われています。
そのため、SMD=−0.64を、「3Dプリントは削り出しより0.64MPa弱かった」と読むことはできません。
研究によって、
- 試験片の形
- 曲げ試験の方法
- 材料
- 厚み
- 製造条件
などが異なります。
そのため、各研究の差を標準化して一つの効果量としてまとめています。
ですから今回のメタ解析から、「3Dプリントジルコニアは平均○○MPa弱い」という数字を直接作ることはできません。
研究の図に数字が並んでいると、一つの「強度差」に変換したくなりますが、そこは注意が必要でした。
本当に注目したい数字は「I²=92%」かもしれません
I²は、研究間の結果のばらつき、つまり異質性を見る指標の一つです。
今回の曲げ強さでは、I²=92%でした。
非常に大きな異質性です。
つまり、「20研究を行ったら、ほとんど全部で同じ程度に削り出しが強かった」という姿ではありません。
実際に個々の研究を見ると、
- 削り出しの平均値がかなり高い研究
- ほとんど差がない研究
- 逆に3Dプリント側の平均値が高い研究
が混在しています。
主論文の著者らも、この大きなばらつきの背景として、3Dプリント方式、ジルコニアの組成、造形方向、焼結条件などを挙げています[1]。
ですから、「全体平均では削り出し優位」と、「どんな3Dプリントジルコニアでも削り出しより弱い」は同じ意味ではありません。
同じ「3Dプリント」でも、DLPとSLAは作り方が違います
ここで、今回の論文の面白いところに入ります。
3Dプリントジルコニアの研究でよく登場するのが、DLPとSLAです。
どちらも、ジルコニア粒子などを含む光硬化性材料へ光を当てながら造形していく方法ですが、光の当て方が違います。
SLAでは、レーザーを使って点ごとに走査しながら硬化させます。
DLPでは画像を投影し、一層を面として硬化させます。
主論文でも、SLAは点ごとの重合、DLPは画像投影による層ごとの重合として区別されています[1]。
私は「3Dプリンター」という一つの機械の種類のように考えていましたが、研究を読むと、それだけでは全然足りません。
そして主論文では、この2方式を分けて曲げ強さが解析されました。

DLPでは、削り出しより曲げ強さが低い結果でした
DLPで作ったジルコニアだけを取り出したサブグループ解析では、
- SMD=−0.59
- 95%CI −0.79〜−0.40
- P<0.0001
でした[1]。
この解析では、削り出しジルコニアのほうが高い曲げ強さを示しています。
DLPの解析には13研究が含まれました。
しかし、ここでも忘れてはいけない数字があります。
I²=93%
です。
DLPに限定しても、研究同士はかなりばらついています。
したがって、「DLPなら必ずこの程度弱くなる」という意味ではありません。
あくまで、今回のDLPサブグループでは、削り出しとの間に統計学的有意差が認められたという結果です。
一方、SLAでは削り出しとの有意差が確認されませんでした
SLAサブグループでは、
- SMD=−0.14
- 95%CI −0.43〜0.14
- P=0.33
でした[1]。
統計学的有意差はありません。
そして、I²=88%です。
したがって今回の論文では、
- AM全体では削り出し優位
- DLPサブグループでは削り出し優位
- SLAサブグループでは有意差なし
という結果になりました。
これが、今回の記事タイトルを、「3Dプリントだから弱い」ではなく、「方式別に結果が分かれた」とした理由です。

ただし「DLPは有意、SLAは非有意」だけで、DLPとSLAの差が証明されたわけではありません
ここは、特に慎重にしたいところです。
DLPではP<0.0001。
SLAではP=0.33。
数字だけを見ると、「DLPとSLAでは強さが違う」と結論したくなります。
でも統計学的には、一方のサブグループで有意、もう一方で非有意という事実だけから、二つのサブグループの効果そのものに統計学的有意差があると自動的に結論することはできません。
本当に「DLPとSLAで効果量が違う」と統計学的に比較するなら、サブグループ間差についての検定が重要になります。
今回確認した主論文では、そのサブグループ間差を独立して検定した結果が明確には示されていません。
著者らは製造技術によって結果が異なる可能性を論じていますが、本稿では、「方式によって強さが違うことが証明された」ではなく、「方式別に解析したところ、DLPでは有意差があり、SLAでは有意差が確認されなかった」と表現します。
似ていますが、意味は少し違います。
さらに「有意差なし」は「同じ強さと証明された」でもありません
これも大切です。
SLAでP=0.33だったからといって、「SLAで作れば削り出しジルコニアと同じ強さです」と書くのは正確ではありません。
「差があることを統計学的に示せなかった」ことと、「二つが同等であることを証明した」ことは別だからです。
今回の解析は、あらかじめ許容できる差を設定して同等性を証明するための同等性試験ではありません。
しかもSLAサブグループでもI²=88%です。
ですから、「SLAでは削り出しとの統計学的有意差が確認されなかった」とは言えますが、「SLAは削り出しと同じ強さだった」とまでは言いません。

今回確認したPDFは、査読・採択後の先行公開版です
ここでも一つ注意があります。
今回確認したPDFは、査読・採択後に先行公開されたArticle in Press版です。
DOIを持ち、引用可能ですが、出版社による最終編集版に置き換わる予定の版と明記されています[1]。
そのPDFを実際に確認していると、少し気になるところがありました。
方法には「ランダム効果モデル」、一方で方式別の図には「Fixed」と表示されています
方法の説明には、ランダム効果モデルを使用したと明記されています[1]。
全体の曲げ強さを表したフォレストプロットも、IV, Randomと表示されています。
ところが、DLPとSLAのサブグループのフォレストプロットを確認すると、図中にはIV, Fixedと表示されています。
しかも異質性は、
- DLP:I²=93%
- SLA:I²=88%
です。
さらに本文では、DLPをFig.4、SLAをFig.5として参照している箇所がありますが、実際の図の説明は、
- Fig.4=SLA
- Fig.5=DLP
となっています。
ただし、
- SLA:SMD −0.14
- DLP:SMD −0.59
という数値自体は、それぞれの図と対応しています。
そのため、「解析そのものが誤っている」とまでは断定できません。
ただし、
- 方法と図中の解析モデル表示に不整合がある
- 図番号の参照にも不整合がある
- しかも両サブグループとも異質性が非常に大きい
という点は、結果を読むうえで頭に置いておきたいところです。
この表示上の不整合があるため、本稿では方式別解析の95%信頼区間やP値を過度に精密な推定として扱わず、結果の方向を慎重に読みます。
したがって、サブグループのP値だけを根拠に、「DLPは弱い」「SLAなら同等」と確定的には扱いません。

25研究あっても、研究の「質」が25倍強くなるわけではありません
研究の数だけでなく、質も確認する必要があります。
今回の論文では、実験室研究を評価するQUINという尺度が使われました。
結果として、多くの研究が中程度のバイアスリスク、一部が低リスクと評価されています[1]。
特に問題になっていたのは、
- 標本数の事前設計が十分に報告されていない
- 無作為化の記載が不十分
- 盲検化の記載が不十分
- 実験者に関する情報が十分でない
といった点です。
「25研究もあります」と聞くと、それだけでかなり確定した答えに感じます。
でも、研究数が多いことと、すべての研究の方法が高品質で揃っていることは別です。
25という数だけでなく、「どんな25研究だったのか」まで見る必要があります。
小さい研究ほど大きな差が出ていた可能性もあります
曲げ強さについては、漏斗状の図(ファンネルプロット)も作られています。
著者らは中等度の非対称性があるとして、小規模研究効果の可能性を指摘しています[1]。
ただし、「出版バイアスが証明された」という意味ではありません。
小さな研究で大きな差が出たものが出版されやすかった可能性もありますし、そもそも実験室でのジルコニア研究の条件が大きく異なることが、図の非対称性に影響した可能性もあります。
著者ら自身も両方の可能性を挙げています。
こういう部分まで読むと、P=0.03という一つの数字だけで結論を決められない理由が見えてきます。
別のメタ解析でも、DLPとSLAを一緒にしないほうがよさそうな結果でした
今回のBMC論文だけを見ていると、「たまたまこのレビューだけでそうなったのでは?」とも思います。
そこで、別の系統的レビューとメタ解析も見てみました。
Ruggieroらは31研究を定性的に評価し、そのうち21研究を定量解析に用いました[2]。
こちらでも全体では3Dプリント側の曲げ強さが低い方向でした。
方式別では、
- DLPでは削り出し優位
- SLAでは統計学的有意差なし
という、今回のBMC論文とおおむね似たパターンが報告されています。
さらに、
- 造形方向
- 積層厚
- 曲げ試験法
まで分けて解析しています。
この論文は2026年の巻に収載されていますが、オンライン先行公開は2025年7月4日でした。
別の研究グループ、別の選択基準でも、「3Dプリント」という一括りだけでは不十分という方向は共通しています。
ただし、こちらでも、DLPとSLAの優劣を絶対的に確定できたという意味ではありません。
「曲げ強さの測り方」を変えるだけでも結果の見え方が変わりました
Ruggieroらのレビューでは、曲げ強さの試験方法によるサブグループ解析も行われています[2]。
一軸系の曲げ試験では、3Dプリントと削り出しに有意差が認められなかった一方、二軸曲げ試験では削り出しが有意に高い結果でした。
さらに、造形方向と試験法を組み合わせると、
- 0°+一軸試験:有意差なし
- 0°+二軸試験:有意差あり
- 90°+一軸試験:有意差あり
- 90°+二軸試験:有意差なし
と、結果の見え方が変わります。
同じ「曲げ強さ」という言葉でも、どう曲げたかまで同じとは限らないのです。
今回のBMCレビューでI²=92%だった背景には、こうした試験法の違いも関係している可能性があります。
ところが2026年の別の大規模レビューでは、直接比較研究で有意差が出ませんでした
さらに話は複雑になります。
2026年、Journal of DentistryにAntalらの系統的レビューとメタ解析が発表されました[3]。
こちらは196論文を扱った大規模レビューです。
3点曲げ強さについては36研究がメタ解析対象となりました。
3Dプリントと削り出しを同じ研究内で直接比較した研究では、統計学的有意差は認められませんでした。
一方、各製造法の研究を別々に集積した解析では、次の統合平均が報告されています。
3Y系
- 削り出し:1021.33MPa
- 3Dプリント:818.25MPa
5Y系
- 削り出し:549.72MPa
- 3Dプリント:689.16MPa
ここだけを見ると、「5Yでは3Dプリントのほうが強いの?」と思ってしまいます。
しかし、ここにも重要な注意があります。
Antalらの各群別の統合平均は、同じ研究内で直接比較した数字ではありません
先ほどの、
3Y:1021.33MPa vs 818.25MPa
5Y:549.72MPa vs 689.16MPa
という値は、同じ研究内で3Dプリントと削り出しを直接比較した結果ではありません。
異なる研究群から、削り出し側、3Dプリント側をそれぞれ別々に統合した平均値です。
したがって、「5Yでは3Dプリントのほうが削り出しより強いと証明された」と解釈することはできません。
むしろ、同じ研究内で直接比較した研究群では有意差がなかった。
ここが大切です。
研究同士を横並びにした統合平均と、同じ条件下で直接比較した試験は、証拠として同じではありません。
では、MishraらとAntalらのどちらが正しいのでしょうか
一方では、削り出し優位、P=0.03。
別のレビューでは、直接比較研究では有意差なし。
これを見ると、「どちらかの研究が間違っているのでは?」と思うかもしれません。
でも、そう簡単ではありません。
系統的レビューとメタ解析でも、
- どの期間を検索したか
- どんな研究を採用したか
- 3Y、4Y、5Yをどう扱ったか
- DLPとSLAをまとめたか
- 3点曲げと二軸曲げをどう扱ったか
- 造形方向をどう扱ったか
- 厚みをどう扱ったか
- 同一研究内の直接比較だけを使ったか
- 統計モデルをどう設定したか
によって、答えの見え方は変わります。
つまり、「メタ解析だから一つの絶対的な答え」ではありません。
メタ解析は、論文をたくさん集めれば自動的に正解になる方法ではありません
メタ解析はとても重要な研究方法です。
小さな研究一つだけを見るより、複数の研究をまとめて全体の傾向を見られます。
今回も、「全体では削り出し側が高かった」という大きな流れを知ることができました。
一方で、何を一緒にまとめたのかを見ないと、平均値の中で条件差が隠れてしまうことがあります。
実際、2025年のAlrabiahらによる15研究のメタ解析では、
- 曲げ強さ
- 硬さ
- 密度
- 接着強さ
- 破壊靱性
について、3Dプリントと削り出しに有意差が確認されませんでした[4]。
一方で研究間の異質性は大きく、著者らは造形方向、3Dプリント方式、焼結条件などの影響を指摘しています。
ですから、「メタ解析で有意差があった」だけではなく、「何をまとめたメタ解析だったのか」を見ることが大切です。

そもそもジルコニア自体が、3Y・4Y・5Yで同じではありません
もう一つ、製造法以外の大きな違いがあります。
ジルコニアそのものです。
歯科用ジルコニアでは、イットリア含有量などによって、
- 3Y
- 4Y
- 5Y
といった材料があります。
大まかには3Y-TZPは高い強度・破壊靱性を持つ一方、透光性は低めです。
4Y、5Yとイットリア量が増えるにつれて透光性を高めやすくなる一方、機械的性質は低くなる傾向があります[1]。
ですから、「3Dプリントか、削り出しか」だけを比較しているつもりでも、材料の種類まで違えば話が混ざります。
実際、3Yと4Yで比較結果の方向が変わった研究があります
Kyungらは、3Y-TZPと4Y-TZPについて、3Dプリントと削り出しを比較しました[9]。
二軸曲げ強さなどを評価した研究です。
3Yでは削り出しのほうが高かった一方、4Yでは3Dプリント側が高い結果でした。
この研究だけで、「4Yなら3Dプリントのほうが強い」と一般化することはできません。
でも、製造法だけではなく、ジルコニア組成も結果を左右することを考える材料にはなります。
3Y・4Y・5Yの違いについては以前のコラムで詳しく取り上げているため、今回は深追いしません。
今回覚えておきたいのは、「3Dプリントジルコニア」という一種類の材料があるわけではないという点です。

同じ材料でも「どの向きで作るか」が関係します
3Dプリントは、材料を層として積み重ねます。
そのため、完成した試験片へ力をかける方向と積層面との関係が変わると、亀裂の入り方や進み方も変わる可能性があります。
これが造形方向です。
研究では0°、45°、90°などの条件で比較されています。
Ruggieroらのメタ解析でも、造形方向によって削り出しとの比較結果が変わっています[2]。
ただし、「0°なら必ず強い」と覚えるのも正確ではありません。
研究ごとに、
- 角度の定義
- プリンター
- 材料
- 後処理
- 荷重方向
- 試験方法
が違うからです。
大切なのは、造形方向も一つの変数であるということです。
一層が25μmか50μmかという違いまで研究されています
3Dプリントでは、一層ずつ形を積み上げます。
そこで、一層あたりの厚さも研究対象になります。
Ruggieroらの解析では、25μm、50μmと積層厚を分けた解析も行われています[2]。
どちらの条件でも、削り出し側の曲げ強さが高い結果でした。
ただし、ここでも、
「25μmが悪い」
「50μmなら良い」
という話ではありません。
DLPかSLAか。
どの方向へ造形したか。
どの材料か。
どう焼結したか。
積層厚は、その組み合わせを構成する一つの条件です。
材料の中にどれだけジルコニア粒子を含ませるかも関係します
ジルコニアの3Dプリントというと、ジルコニアだけをそのまま積み上げているようにも聞こえます。
しかし、SLAやDLPなどでは、ジルコニア粒子と光硬化性成分などを含む材料を使います。
ここで関係するのが、固形分濃度(solid loading)です。
どの程度セラミック粒子を含ませるかによって、
- 造形のしやすさ
- 収縮
- 密度
- 気孔
- 最終的な機械的性質
などが変わる可能性があります。
2024年のAlghauliらの系統的レビューでは38研究を採用し、3Dプリントジルコニアの性能には、
- 製造方式
- 造形方向
- イットリア量
- 固形分濃度
- 焼結条件
などが関係すると整理しています[5]。
しかも38研究のうち36研究は実験室研究で、臨床研究は2研究だけでした。
「3Dプリンターの性能」だけでは、最終的なジルコニアの性能を決められないのですね。
ジルコニアの中に残る小さな気孔も、強さに関係します
セラミックスは、金属のように大きく伸びてから壊れる材料ではありません。
内部の欠陥や亀裂の起点が、破壊に大きく関係します。
3Dプリントジルコニアでは、気孔率も研究されています。
Zandinejadらは、SLAで造形したジルコニアについて、意図的に異なる気孔率条件を作って比較しました[14]。
気孔率0%群:755.1±147.1MPa
気孔率40%群:48.09±8.95MPa
まで低下しました。
もちろん、実際の3Dプリントクラウンに40%も穴が空いているという意味ではありません。
これは、気孔率の影響を調べるために人工的に条件を変えた実験です。
この研究から分かるのは、内部欠陥の量が変われば、同じ3Dプリントジルコニアでも機械的性質が大きく変わり得るということです。

そして、3Dプリンターから形が出てきた時点ではまだ完成ではありません
ここで最初の話に戻ります。
3Dプリントでジルコニアの形を作ったあとには、重要な工程が残っています。
光硬化性成分などを取り除く脱脂。
そして、ジルコニアを緻密なセラミックスにする焼結。
この工程を経て、最終的な材料になります。
つまり、同じプリンターで同じ形を出力したから、最終的な強度も同じとは限りません。
主論文でも、焼結条件は研究間の異質性に関係する要因として挙げられています[1]。

焼結時間と材料の厚さの組み合わせでも結果が変わりました
Ruesら2024年の研究は、この話をとても分かりやすく示しています[8]。
3Y-TZPの3Dプリント試験片を、
0.6mm
と
1.2mm
の二つの厚みに分けました。
さらに焼結に関する工程時間を、
約51時間の長時間条件
と、
約14.5時間の短縮条件
に分けました。
0.6mmでは、どちらの条件でも平均曲げ強さは約1000MPaでした。
ところが、1.2mm+短縮条件では平均約805MPaまで低下し、約半数の試験片が500MPa未満でした。
ここから、「短時間焼結は弱い」とだけ覚えるのも違います。
0.6mmでは大きな低下がみられなかったからです。
つまり、厚さと焼結条件の組み合わせまで関係していました。

平均MPaだけでは「どれくらい安定して同じ強さになるか」は分かりません
研究で「強度」を見ると、平均値に目が行きます。
でもセラミックスでは、値のばらつきも重要です。
そこで使われる考え方の一つが、Weibull(ワイブル)解析です。
Zenthöferらの研究では[11]、
削り出し:1462±105MPa
3Dプリントの条件では、
1369±280MPa
1197±317MPa
という平均値でした。
平均値だけを見ると、どれもかなり高い数字です。
ところがワイブル係数は、
削り出し:14〜16程度
3Dプリント:3〜6程度
でした。
ワイブル係数は、セラミックスの破壊強度分布・ばらつきを考えるための指標です。
たとえばイメージとして、平均点90点の二つのクラスがあっても、一方は全員が85〜95点、もう一方は点数が大きく散らばっている、という違いに少し似ています。
もちろん学校の点数とワイブル解析は同じものではありません。
でも、平均値だけでは材料の信頼性を全部表せないというイメージはつかみやすいと思います。

そもそも「強い」という言葉自体が、一つの数字ではありません
ここまで読んで、私は「強い」という言葉をかなり簡単に使っていたことに気づきました。
曲げ強さ
曲げ荷重に対してどのくらい耐えられるか。
破壊靱性
できた亀裂が進むことへどれくらい抵抗できるか。
硬さ
表面へ物体を押し込むことなどへの抵抗。
疲労
繰り返し力を受けたあと、どのように性能が変わるか。
ワイブル解析
破壊強度の分布やばらつきを考える方法。
実際のクラウンの破折
材料だけでなく、形、厚さ、支台歯、装着、咬合、時間などが関係。
つまり、「3Dプリントジルコニアは強いですか?」への答えには、本当は、「何の強さを比べていますか?」という問いが必要なのかもしれません。
微小硬さでは、3Dプリントと削り出しに有意差がありませんでした
今回のBMCレビューでは、微小硬さについてもメタ解析されています[1]。
4研究を統合した結果は、
- SMD=−1.80
- 95%CI −4.07〜0.47
- P=0.12
でした。
統計学的有意差はありません。
しかしI²は、96%です。
つまり、「硬さは完全に同じだった」という結果ではありません。
研究数は4研究と少なく、信頼区間も広く、研究間のばらつきも非常に大きい。
正確には、「今回統合された研究では、微小硬さに統計学的有意差を確認できなかった」です。
表面粗さにも統計学的有意差は確認されませんでした
表面粗さは10研究がメタ解析されました[1]。
結果は、
- SMD=−0.24
- 95%CI −0.55〜0.07
- P=0.13
で有意差なし。
I²は、92%でした。
これも、「3Dプリントでも削り出しでも表面はいつでも同じ」という意味ではありません。
製造法以外にも、
- 表面仕上げ
- 研磨
- 焼結
- 測定方法
などが関係します。
ジルコニアの研磨とグレーズについては以前詳しく取り上げていますので、今回はここまでにします。

試験片が強いことと、実際のクラウンが割れないことは同じではありません
研究室では、
- 棒状試験片
- 円板状試験片
- 一定の厚み
- 決められた荷重位置
- 決められた速度
で試験できます。
実際の歯はそうではありません。
クラウンには咬頭や溝があります。
場所によって厚みも違います。
その下には支台歯があります。
装着材料があります。
上下の歯との接触があります。
噛むたびに繰り返し力がかかります。
温度も変わります。
水分もあります。
ですから、試験片の曲げ強さが低かったからといって、患者さんのクラウンがすぐ割れるとは言えません。
主論文自身も、今回の結果は異なる製造法で作ったジルコニアの材料特性についての証拠であり、長期的な臨床性能を直接示す証拠ではないと注意しています[1]。

実際の歯へ装着すると、材料単体とは違う結果になる研究もあります
2024年のAlghauliらのレビューでは、単純な棒状・円板状試験片だけでなく、
- クラウン
- 咬合面ベニア
- 3ユニットブリッジ
などの研究も整理されています[5]。
たとえば薄い3Y-TZPの3Dプリント咬合面ベニアを人歯へ接着した条件では、比較対象となった5Yの削り出しジルコニア製ベニアより高い破壊抵抗を示した研究も含まれています。
ただし、これも、「実際の歯では3Dプリントのほうが強い」という意味ではありません。
そもそも材料が3Yと5Yで違います。
したがって、この研究は「3Dプリントか削り出しか」という製造法だけの効果を比較した研究ではありません。
ここから分かるのは、補綴物は材料単体ではなく、「歯+装着材料+修復物」という構造として力を受けるということです。
そして2025年には、患者さんのクラウンを直接比較したランダム化比較試験も出ました
ここまでほとんど実験室の話でした。
ところが2025年、Caiらから実際の患者さんを対象としたランダム化比較試験が発表されています[7]。
対象は、43人・48本の臼歯部の歯です。
微細粒子を噴射する方式(NPJ)で作った3Dプリントジルコニアクラウン24本と、CAD/CAMで削り出したジルコニアクラウン24本を無作為に割り付け、12か月追跡しました。
FDIの評価基準による審美・機能・生物学的評価では、両群に統計学的有意差はありませんでした。
著者らの定義による12か月時点の臨床的成功率は、
- NPJ:95.8%
- CAD/CAM:91.6%
で、破折は各群1本ずつでした。
材料試験のメタ解析だけを読んだあとだと、少し意外に感じます。

でも「12か月で統計学的有意差が確認されなかった」から、10年後も同じとは言えません
ここは特に注意が必要です。
このランダム化比較試験は重要な臨床研究ですが、
- 48歯
- 12か月
- NPJという特定方式
です。
この結果から、
DLPも同じ。
SLAも同じ。
ブリッジも同じ。
5年でも10年でも同じ。
と広げることはできません。
また、12か月時点で有意差が検出されなかったことは、臨床的に意味のある差が存在しないと証明したことでもありません。
以前、「成功率」と「生存率」は何を成功と数えるか、何年間観察したかまで見なければならないという記事を書きました。
今回も同じです。
12か月の短期臨床成績と、長期の生存率・破折率は分けて考える必要があります。
さらに、この2026年9月30日公開論文にも2025年後半以降の研究は入っていません
ここもかなり重要です。
今回のBMC論文は2026年9月30日に公開されました。
すると、「2026年9月までに出た研究を全部まとめた最新レビュー」のように感じます。
しかし方法の説明を見ると、データベース検索を行ったのは2025年4月18日です。
さらに対象となる論文の発表期間は、2015年1月〜2025年1月でした[1]。
つまり、論文が公開された日と、証拠を集め終えた時点は違います。
先ほど紹介した2025年のランダム化比較試験も、このレビューには入りません。
新しい論文を読むときは、「いつ発表された論文か」だけでなく、「いつまで文献を検索した論文なのか」を見ることも大切なのですね。

削り出しのほうが平均的に強いなら、3Dプリントする意味はないのでしょうか
ここまで読むと、「平均では削り出しが強いなら、わざわざ3Dプリントする意味はあるの?」という疑問も出てきます。
でも製造法を評価するときは、曲げ強さだけでは決まりません。
3Dプリントには、
- 材料を必要な場所へ積み上げられる
- 複雑形状を作りやすい可能性がある
- 切削工具を必要としない
といった特徴があります。
一方、削り出しには、
- 工業的に作られた高密度なブロック・ディスクを利用できる
- 長い使用実績がある
- 材料特性が比較的安定している
という強みがあります。
したがって、「3Dプリント対削り出しの勝者を決める」という話ではなく、「何を作るために、どの材料・どの製造システムを使うのか」を見ることになります。
3Dプリント補綴全体の適応や長期予後については、以前のコラムで詳しく取り上げています。
「強さが近い」からといって、透明感まで同じとは限りません
今回のテーマは曲げ強さですが、歯科の修復材料には見た目も重要です。
強度が近い条件でも、
- 透光性
- 色調
- 表面性状
- 適合精度
まで同じとは限りません。
つまり、強度が同じくらいだから、同じ歯科材料としてすべて同じということではありません。
3Y・4Y・5Yの強度と透光性については以前のコラムで詳しく扱っていますので、今回は、評価する物差しは一つではないというところまでにします。
結局、「3Dプリントジルコニア」という一種類の材料があるわけではありません
ここまで出てきたものを並べると、最初の質問そのものを少し変えたほうがよさそうです。
最初は、「3Dプリントのジルコニアは、削り出しジルコニアより弱いですか?」でした。
でも実際には、
- DLPなのか
- SLAなのか
- NPJなのか
- 3Yなのか
- 4Yなのか
- 5Yなのか
- どんな材料組成なのか
- 固形分濃度はどうか
- どの向きに造形したのか
- 一層は何μmなのか
- どのプリンターなのか
- 光を当てる条件はどうか
- 脱脂はどうしたのか
- 焼結条件はどうか
- 厚みはどうか
- その後どう仕上げたのか
- 何の試験で「強い」と判定したのか
まで見なければなりません。
「3Dプリントジルコニア」という言葉だけで、一つのMPaを当てはめることは難しいのだと思います。
メタ解析の平均値は大切ですが、条件の違いを消してしまうこともあります
今回の研究を読んで、一番印象に残ったのはここでした。
メタ解析は、複数研究をまとめて全体像を見るための非常に有用な方法です。
だからこそ今回、全体では削り出し優位という結果を知ることができました。
一方で、その平均値の中には、
DLPとSLA。
異なるジルコニア。
異なる造形方向。
異なる厚み。
異なる焼結。
異なる試験方法。
が含まれています。
そして一度方式別に分けても、
DLP:I²=93%
SLA:I²=88%
と、まだ大きな異質性が残りました[1]。
つまり、方式の違いだけでも、研究間差のすべてを説明できていません。
25研究をまとめて一つの答えを作ったら終わりではなく、その答えをもう一度ほどいて、何が違う研究をまとめた結果なのかを見る必要がありました。
歯科助手として今回覚えたのは、「新しいか古いか」ではなく条件を見ることでした
最初は、「最新の3Dプリントなら、もう削り出しと同じくらい強いのでは?」とも思いました。
反対に、「層を積み重ねて作るなら、削り出しより弱そう」とも思いました。
でも今回25研究の系統的レビューを読んでみると、どちらも少し単純すぎました。
全体では削り出しが高強度。
DLPサブグループでは有意差があった。
SLAサブグループでは有意差が確認されなかった。
ただし、その二つだけでDLPとSLAの効果差まで証明されたわけではない。
SLAで有意差がないからといって、同等性が証明されたわけでもない。
造形方向、積層厚、材料組成、気孔、脱脂、焼結、試験方法でも結果が動く。
さらに、材料試験と実際のクラウンの臨床成績も同じではありません。
新しい技術だから優れているとも、従来法だから必ず優れているとも、一言では決められないようです。
まとめ――「3Dプリントだから弱い」も「最新だから同じ」も、まだ早そうです
今回の2026年BMC Oral Healthの系統的レビューとメタ解析では、25研究が採用され、20研究の曲げ強さをまとめると、全体として削り出しジルコニアのほうが有意に高い結果でした。
しかし、I²=92%と、研究間のばらつきは非常に大きいものでした。
方式別では、DLPサブグループでは削り出し優位、SLAサブグループでは統計学的有意差なし、という異なる結果になりました。
ただし、「DLPで有意、SLAで非有意」だけでは、DLPとSLAそのものに統計学的な効果差が証明されたことにはなりません。
また、「SLAで有意差なし」=「削り出しと同等と証明」でもありません。
微小硬さと表面粗さについても有意差は確認されませんでしたが、どちらも異質性は大きく、「完全に同じ」と証明されたわけではありません。
さらに他のメタ解析を見ると、
- 研究の選び方
- 造形方向
- 積層厚
- 試験方法
- ジルコニア組成
- 直接比較かどうか
によって結果の見え方が変わります。
2025年には実際の患者さんを対象にした12か月のランダム化比較試験も出始めていますが、長期臨床データはまだ十分とは言えません。
ですから今の段階では、「3Dプリントだから弱い」とも、「最新技術だから削り出しと同じ」とも言わないほうがよさそうです。
今回の治療見学ノートで私が覚えたのは、「3Dプリントかどうか」だけではなく、「何を、どの方式で、どの条件で作り、何を測った結果なのか」まで見ることが大切ということでした。
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