2026年8月11日

(院長の徒然コラム)

はじめに
歯内‐歯周病変(endodontic-periodontal lesion:EPL)は、歯内療法と歯周治療の境界に位置する病変です。
根尖部に透過像がある。その歯に非常に深い歯周ポケットがある。歯髄診断にも異常がみられる。さらに骨吸収が歯根に沿って根尖方向へ伸び、症例によっては歯根の両側を取り囲むように歯槽骨支持が失われています。
こうした歯を前にすると、診断名をつけるだけでは治療方針は決まりません。
根管治療だけで改善するのか。歯周治療も必要なのか。歯周組織再生療法まで行う意味があるのか。そして最終的には、この歯をどこまで残すことができるのか。
EPLそのものの分類や診断、歯内療法と歯周治療の順序については、以前の「歯内‐歯周病変をどう分類し、治療順序を決めるか」で詳しく整理しました。
しかし、EPLと診断できることと、その歯がどのくらい長く残るのかを予測できることは別問題です。
2026年、Kimura氏らは Journal of Clinical Periodontology に、EPL治療後の歯の生存と治療開始前の予後因子を検討した後ろ向きコホート研究を報告しました。
解析されたのは187歯です。
そしてKimura氏らは、従来のEPL Gradeとは別に、デンタルX線写真上の骨吸収形態を、I-shape、J-shape、U-shapeの3種類に分けるI-J-U亜分類(I-J-U subclassification)を提案しています。
今回の研究で興味深いのは、新しい名前をつけたことそのものではありません。
骨がどれだけ失われているかだけでなく、「どのような形で失われているか」にも歯の予後に関する情報が含まれているのではないか。
その仮説を、実際の歯の生存データを用いて検討したところにあります。
2017 World WorkshopのEPL分類とI-J-U亜分類は別のもの
今回のI-J-U亜分類を理解するには、2017 World Workshopで提案され、2018年に報告されたEPL分類と混同しないことが重要です。
既存のEPL分類では、まず歯根の損傷の有無が大きな分岐になります。
歯根破折、穿孔、外部歯根吸収など、歯根そのものに重大な損傷が存在する場合と、そうした損傷を認めない場合では、治療方針も予後も大きく異なるためです。
歯根の損傷を認めない場合には、さらに患者が歯周炎患者であるかどうかを確認し、深い歯周ポケットの広がりなどによってGrade 1〜3へ分類します。
Kimura氏らの研究でも、まずこの既存分類を用いてEPL Gradeを評価しました。そのうえで追加的に、デンタルX線写真に写る骨吸収の形態をI、J、Uに分類しています。
つまり、既存のEPL分類は、診断時の臨床像や病変の広がりを整理する枠組みです。
それに対して、I-J-U亜分類は、X線上の骨吸収形態から予後に関する情報を追加しようとする試みです。
両者は別の軸です。I-shapeがGrade 1、J-shapeがGrade 2、U-shapeがGrade 3という対応関係ではありません。

I-shape――片側性の骨内欠損があり、明瞭な根尖透過像を伴わない
I-shapeは、片側の隣接面に骨内欠損を認める一方で、明瞭な根尖透過像を伴わない形態です。
模式的には、歯槽骨頂側から歯根に沿って骨吸収が縦方向へ伸びていますが、根尖部まで明瞭な透過像として連続していません。
ただし、I-shapeを「軽症」と理解するのは適切ではありません。
今回のI-shape 34歯でも、平均骨吸収率は58.7%、最深部PDは平均7.8 mmでした。かなりの歯周組織破壊を伴った歯も含まれています。
したがって、I・J・Uは単純な「軽症→中等症→重症」という3段階分類ではありません。
J-shape――片側性骨内欠損と根尖透過像を伴う
J-shapeでは、片側の骨内欠損に根尖透過像を伴います。
歯槽骨頂側から歯根に沿って伸びる透過像が根尖部の透過像と連続するため、模式的にはJ字状に見えます。
ただし、ここには臨床上非常に重要な注意があります。
J字状のX線透過像があるからといって、それだけでJ-shape EPLと診断できるわけではありません。
垂直性歯根破折などでも似た画像所見を認めることがあります。
「垂直性歯根破折はなぜ見逃されるのか」でも取り上げたように、限局した深い歯周ポケットと歯根に沿った透過像を認める場合には、EPLだけでなく歯根破折を含めた鑑別が必要です。
また、セメント質剥離も、歯周病、根尖性歯周炎、EPL、垂直性歯根破折などと鑑別が問題になる病態です。
Kimura氏らの研究では、亀裂、歯根破折、外部歯根吸収など、歯根の損傷が疑われる歯を除外しています。
したがって、今回報告されたJ-shapeの予後は、J字状透過像を示すすべての歯の予後ではありません。
U-shape――歯根の両側に骨内欠損があり、根尖透過像も伴う
U-shapeは、歯根の両側に骨内欠損が存在し、さらに根尖透過像を伴う形態です。
単根歯で考えれば、片側だけではなく両側から歯根周囲の骨支持が失われ、根尖部の透過像まで連続しているため、模式的にはU字状になります。
この分類が見ているのは、単なる根尖病変の有無ではありません。
歯槽骨頂から根尖部まで、歯根周囲の骨支持がどのような形で残っているか。
そこに注目しています。

研究対象187歯――まず症例背景を見ておきたい
今回の研究対象を詳しく見てみます。
2015年4月から2021年3月までに、東京医科歯科大学病院、現在の東京科学大学病院の歯周病外来で根管治療を受けた症例が調査されました。
2541歯がスクリーニングされ、398歯が適格性評価へ進みました。
その後、喫煙者10歯、治療前の全顎的歯周検査記録または全顎X線写真が不足していた194歯、歯根の損傷が疑われた7歯が除外され、最終的に187歯が解析対象になっています。
平均年齢は60.8±11.4歳でした。
I-J-U別では、I-shape 34歯(18.2%)、J-shape 104歯(55.6%)、U-shape 49歯(26.2%)です。
EPL Gradeでは、Grade 1が29歯(15.5%)、Grade 2が51歯(27.3%)、Grade 3が107歯(57.2%)でした。
つまり、半数以上がGrade 3です。
さらに、今回の患者は全員が歯周炎患者でした。
歯周炎のStageは、Stage Iが1人、Stage IIが10人、Stage IIIが108人、Stage IVが68人。Stage IIIとIVを合わせると、約94%を占めています。
今回の研究は、軽度の歯周炎患者を中心とした一般的な集団ではありません。大学病院の歯周病外来で、かなり進行した歯周炎を持つ患者が多く含まれています。
この点は、後で出てくる生存率を読む際に非常に重要です。
I・J・Uでは歯種の分布も違う
歯種の分布にも違いがあります。
I-shapeでは34歯中20歯、58.8%が大臼歯。J-shapeでは104歯中68歯、65.4%が大臼歯でした。
一方、U-shapeでは大臼歯は49歯中10歯、20.4%にとどまり、前歯が22歯、44.9%、小臼歯が17歯、34.7%でした。
これもI-J-Uを単純な重症度3段階として扱えない理由の一つです。
I-shapeが時間経過とともにJ-shapeとなり、さらにU-shapeへ進行したことを示した研究ではありません。
EPL Gradeの分布にも違いがあった
Grade 3の割合を見ると、I-shape 41.2%、J-shape 56.7%、U-shape 69.4%でした。
逆にGrade 1は、I-shape 26.5%、J-shape 17.3%、U-shape 4.1%です。
既存のEPL GradeとI-J-Uは別の分類ですが、今回の症例群では完全に独立した分布でもありません。U-shape群にはGrade 3の歯が多く含まれていました。
骨吸収率――I 58.7%、J 65.4%、U 88.2%
治療開始時の平均骨吸収率は、I-shape 58.7±13.4%、J-shape 65.4±15.7%、U-shape 88.2±18.1%でした。
U-shapeの平均88.2%という数字はかなり大きい。
つまりU-shape群では、単に骨吸収の形がU字状だっただけではなく、骨吸収量そのものも非常に大きい症例が多かったことになります。
最深部PD――I 7.8 mm、J 8.6 mm、U 9.6 mm
最深部PDの平均値は、I-shape 7.8±1.9 mm、J-shape 8.6±2.0 mm、U-shape 9.6±2.4 mmでした。
全体平均でも8.7±2.2 mmです。
かなり深いポケットを持つEPL症例群だったことが分かります。
BOPはI・J・Uのどの群でも9割を超えていた
一方、プロービング時出血(BOP)は少し違った見え方をします。
BOP陽性率は、I-shape 94.1%、J-shape 90.4%、U-shape 91.8%でした。
どの群でも9割以上が陽性です。
今回の集団では、BOPはI・J・Uを大きく分ける項目というより、EPL歯の多くで炎症所見が存在していたことを示していると考える方が自然でしょう。
動揺度はU-shapeで大きかった
動揺度ではかなり違いがみられました。
動揺度2または3を合わせると、I-shape 20.6%、J-shape 20.2%、U-shape 61.2%でした。
U-shapeでは6割を超える歯が動揺度2〜3です。
一方、動揺度0は、I-shape 47.1%、J-shape 46.2%、U-shape 10.2%。
U-shape群では、治療開始時から歯の支持そのものがかなり失われていた症例が多かったことが分かります。
根尖病変の程度にも大きな違いがあった
Periapical Index(PAI)でも差がみられました。
PAI 4または5の割合は、I-shape 0%、J-shape 28.9%、U-shape 65.3%でした。
U-shapeでは約3分の2がPAI 4〜5です。
つまりU-shape群は歯周支持だけでなく、根尖側の画像所見についても高度な症例が多かったことになります。

全体の1年推定生存率は83.8%、5年では58.9%
平均観察期間は3.1±2.1年、最長8.4年でした。
187歯のうち117歯が観察終了時点まで生存し、70歯が抜歯されています。
70歯のうち68歯、97.1%は病変の進行が抜歯理由でした。
Kaplan–Meier法による推定歯牙生存率は、1年83.8%、5年58.9%です。
ここで5年58.9%という数字だけを見ると、「EPLの約4割は5年間で抜歯される」と受け取りたくなるかもしれません。
しかし、それは正確ではありません。
これは187歯を単純に5年後まで追って割り算した数字ではなく、症例ごとの追跡期間や打ち切りを考慮したKaplan–Meier法による推定生存率です。
また、今回の対象の約94%はStage IIIまたはIVの歯周炎患者で、Grade 3 EPLも57.2%を占めています。
したがって、「EPLなら5年後に約4割が抜歯になる」と一般化することはできません。
I-shape 93.0%、J-shape 72.3%、U-shape 13.4%
今回の研究でもっとも目を引く数字です。
I-J-U別の5年推定歯牙生存率は、I-shape 93.0%、J-shape 72.3%、U-shape 13.4%でした。
同じEPLという診断の中でも、X線上の骨吸収形態によって非常に大きな差がみられています。
実際に観察された抜歯イベント数は、I-shape 34歯中2歯、J-shape 104歯中25歯、U-shape 49歯中43歯でした。
ただし、この2/34、25/104、43/49は実際に観察された抜歯イベント数です。一方、93.0%、72.3%、13.4%は観察期間の違いなどを考慮して算出した5年推定生存率です。
両者は別の数字です。

「U-shapeの予後が悪かった」で終わらせてはいけない
ただし、「Iは良い、Jは中間、Uは悪い」と並べるだけでは、この研究を十分に読んだことにはなりません。
先ほど見たように、U-shape群は治療開始前から、骨吸収量が大きい、PDが深い、動揺が大きい、PAIが高い、Grade 3が多いという特徴を持っていました。
つまり、U-shapeで歯の喪失が多かったのは、Uという形態そのものに予後情報があるのか。それとも、U-shapeに併存していた他の重症所見の影響なのか。
ここを区別する必要があります。
そのために重要になるのが多変量解析です。
I-J-Uを入れないモデルでは、何が予後と関連したのか
Kimura氏らは、まずI-J-Uを含めない多変量Cox比例ハザードモデルを解析しています。
Model 1では、年齢は1歳増加あたりHR 1.04、EPL Grade 2・3はGrade 1を基準としてHR 3.74、PAI 3〜5はPAI 1〜2を基準としてHR 2.61、骨吸収率は1%増加あたりHR 1.02、PDは1 mm増加あたりHR 1.17で、いずれも歯の喪失と有意に関連しました。
この結果だけを見ると、従来から臨床で重視してきた項目が並んでいます。
年齢、EPL Grade、根尖病変の程度、骨支持の喪失、ポケットの深さ。これらはいずれも無視できません。
I-J-Uを追加するとJ-shape HR 4.44、U-shape HR 28.06
次にI-J-U亜分類を加えたModel 2です。
I-shapeを基準とすると、J-shapeはHR 4.44、95%信頼区間1.02〜19.31、p=0.047、U-shapeはHR 28.06、95%信頼区間6.03〜130.51、p<0.001でした。
つまり、骨吸収率やPD、EPL Gradeなどを同時に考慮した後でも、I-J-U亜分類と歯の生存との関連が残りました。
ここが今回の研究で特に重要な結果です。
PAIも一緒に入れてもU-shapeは強く関連した
さらにModel 3では、I-J-U亜分類とPAIの双方を含むすべての変数を投入しています。
このモデルでもU-shapeは、HR 29.10、95%信頼区間5.48〜154.67、p<0.001でした。
一方J-shapeは、HR 4.54、95%信頼区間1.00〜20.60、p=0.050でした。
J-shapeはちょうど統計学的な境界付近であり、U-shapeほど強固な結果とは言いにくい点にも注意が必要です。
HR 29.10を「29倍抜ける」と説明してはいけない
U-shapeのHR 29.10という数字は非常に目立ちます。
しかし、95%信頼区間は5.48〜154.67です。
かなり幅があります。
これはU-shapeが不利な方向に関連していたこと自体は強く示唆する一方で、その効果量を精密に「29.1倍」と見積もれているわけではないことを意味します。
U-shapeは49歯です。
今回の結果だけを個々の患者へそのまま当てはめ、「U-shapeなので29倍抜けやすいです」と説明するような使い方はできません。
今回の研究から言えるのは、この研究集団では、U-shapeというX線形態が、他の治療前因子を考慮した後も歯の喪失と強く関連していたというところでしょう。

I-J-Uを加えるとモデルの適合度も改善した
Kimura氏らは、I-J-U亜分類を加えることでモデルの適合度が変化するかも検討しています。
I-J-Uを含まないModel 1では、AIC 617.9、BIC 646.9でした。
I-J-Uを含むModel 2では、AIC 586.5、BIC 618.8でした。
AIC・BICはいずれも小さいモデルの方が、複雑さも考慮したうえでデータへの適合が良いと評価されます。
少なくとも今回のデータでは、I-J-U亜分類を組み込んだモデルの方が良好な適合を示しました。
5年生存予測のAUCは0.77から0.85へ
5年時点の時間依存ROC解析でも、I-J-UなしのModel 1はAUC 0.77、I-J-UありのModel 2はAUC 0.85でした。
つまり、既存の臨床情報だけで予測するよりも、X線上の骨吸収形態を追加した方が、この研究集団の中では歯の生存をよりよく識別できました。
ただし、AUC 0.85=臨床でそのまま使用できる完成済み予後予測モデルではありません。
Kimura氏ら自身も、予後予測モデルそのものを開発することは今回の研究目的ではなかったとしています。
今後、別施設や異なる患者集団で同様の結果が得られるかを検証する必要があります。

骨吸収は「何%失ったか」だけでは足りないのか
歯周病罹患歯の予後を考える際、骨吸収量は昔から重要な評価項目です。
根長の何%まで骨が失われているのか。PDはいくつか。動揺はあるか。根分岐部病変はあるか。
こうした情報が重要であることは、今回の研究でも変わりません。
実際、I-J-Uを含めないModel 1では、骨吸収率やPDも有意に歯の喪失と関連していました。
興味深いのは、I-J-Uをモデルへ加えると、骨吸収率の影響が弱くなったことです。
Kimura氏らは、骨吸収の量と骨吸収の形態が、ある程度重複した情報を持っている可能性を指摘しています。
これは臨床的にも理解しやすいところがあります。
例えば同じ70%の骨吸収であっても、歯根の片側には比較的多くの支持組織が残っている歯と、歯根の両側から根尖部まで骨支持を失っている歯とでは、同じ「70%」でも意味は同じではありません。
重度歯周病の歯を残せるかどうかを考えるときにも、数字一つだけで判断するのではなく、歯単位、部位単位、患者単位でリスクを見る必要があります。
I-J-U亜分類は、骨吸収率という一次元の数字だけでは表現しにくかった骨支持の残り方を、単純なX線形態として捉えようとしているとも考えられます。
ただし、評価しているのは二次元X線像である
一方で、明確な限界があります。
今回のI-J-U判定はデンタルX線写真をもとにした二次元評価です。
実際の歯槽骨欠損は三次元構造です。
頬舌側の骨がどこまで残っているのか。骨壁が何壁残っているのか。根分岐部周囲が三次元的にどうなっているのか。
これらをデンタルX線写真だけで完全に把握することはできません。
Kimura氏らも、今後CBCTなどを用いた三次元評価を加えることで、さらに情報が得られる可能性を研究の限界として挙げています。
I-J-Uは三次元的な骨欠損そのものを完全に分類するものではなく、二次元X線上に投影された骨吸収パターンを予後情報として利用できないかという試みです。
これまでのEPL予後研究と比べるとどうなのか
EPLの長期予後については、そもそも十分なデータが多いわけではありません。
Kimura氏らの原著でも、1年を超える観察期間で歯牙生存を報告した研究は限られており、標準化され検証済みの予後モデルはまだ確立していないことが研究背景として挙げられています。
その比較対象として興味深いのが、Wong氏らが2024年に報告した88歯の後ろ向き研究です。
Kimura氏らのDiscussionでは、Wong氏らの治療済みEPLにおける1年歯牙生存率は68.2%と紹介されています。
またSchmidt氏らの系統的レビューでは、6〜12か月の観察期間で歯の生存率は72.1〜100%の範囲でした。
研究デザイン、EPLの定義、症例背景、治療内容が異なるため、これらの数字を単純比較することはできません。
それでも、Kimura氏らの研究が平均3.1年、最大8.4年まで追跡し、5年生存率を生存時間解析で推定したことには意味があります。
短期成績だけでは見えなかった、時間の経過とともに生存率が低下していく可能性を示しているからです。
「成功」と「生存」も同じではない
Wong氏らの研究がもう一つ興味深いのは、アウトカムを単純な「残った/抜けた」だけで扱っていないところです。
88歯の治療済みEPLについて、success 46.6%、survival 21.6%、failure 31.8%と分類しています。
ここで重要なのは、歯が口腔内に残っていることと、治療が理想的に成功していることは同じではないという点です。
症状や病的所見が残っていても、歯がまだ機能している場合があります。
逆に、歯は残っていても再治療や追加介入を必要としているかもしれません。
今回のKimura氏らの研究が評価した主なアウトカムは「歯の生存」です。
したがって、58.9%という5年生存率をそのまま「5年治療成功率」と読み替えることもできません。
「予後不良」と「抜歯適応」は同義ではない
ここが、今回の研究を臨床に持ち込む際に最も重要なところかもしれません。
U-shapeの5年推定生存率は13.4%でした。かなり厳しい数字です。
しかし、「U-shapeなら抜歯するべきである」という結論を、この研究から導くことはできません。
予後因子と抜歯適応は別だからです。
今回の研究に含まれたのは、EPLと診断され、実際に歯内療法を受けた歯です。
診断時点で治療を行わず抜歯されたEPLは解析対象から外れています。
また、治療後に最終的に抜歯するかどうかは、個々の担当医の臨床判断にも影響されています。
つまり「歯の喪失」という結果には、病変そのものの生物学的進行だけではなく、臨床家がどこまで保存を試み、どの時点で保存を断念したかという意思決定も含まれます。
歯科の「予後」は未来を言い当てることではない
これはEPLだけの問題ではありません。
歯周病罹患歯の予後判定では、以前から同じ問題が議論されてきました。
古典的なMcGuire氏らの予後分類では、歯をGood、Fair、Poor、Questionable、Hopelessなどに分類しました。
しかし、その後Kwok氏とCaton氏らは、予後を単純に「最終的に抜歯になるかどうか」だけで考えるのではなく、治療によって歯周組織を安定した状態へ移行できるかという観点を重視しています。
以前の「保存困難歯の予後判定をどう構造化するか」でも整理したように、「治癒したこと」「歯が残っていること」「機能的に残っていること」「再介入を必要とせず維持できていること」「補綴支台として使用できていること」は、すべて異なるアウトカムです。
予後とは、一つの数字で未来を確定するものではありません。
questionableやhopelessとされた歯でも長期残存することがある
この点を考えるうえで興味深いのが、Graetz氏らの長期研究です。
重度歯周炎患者について、治療開始時にquestionableあるいはhopelessと評価された歯を長期間追跡しています。
aggressive periodontitis群では、定期的なSPT下で、questionableとされた歯の88.2%が15年間残存していました。
さらにhopelessと評価された歯でも、59.5%が残存しています。
もちろんこれはEPL研究ではありません。
それでも、悪い初期予後はリスクを示すが、その歯の未来を確定するものではないことを考えるうえでは示唆的です。
予後分類は自動抜歯判定器ではありません。
Grade 3 EPLでも最大7年保存された報告がある
EPLそのものについても、重度だから一律に保存不能とは言えません。
Tietmann氏らは、Grade 3 EPL 39歯に対して、歯内療法と歯周組織再生療法を組み合わせた治療の長期成績を報告しています。
対象は35人、39歯。
治療前の平均PDは9.74±2.05 mmでした。1年後には5.04±1.61 mm、最終評価時には4.87±2.32 mmまで減少しています。
X線上の骨レベル増加量も、1年時4.87±3.47 mm、最終評価時4.70±3.37 mmでした。
最大7年の追跡で喪失した歯は4歯、10.3%。しかも、その4歯はいずれも歯根破折によるものでした。
一見すると、Kimura氏らのU-shapeにおける5年推定生存率13.4%とはまったく違う印象を受けます。
しかし、両研究を直接比較してはいけません。
Tietmann氏らの研究はかなり選択された症例を対象としている
Tietmann氏らはGrade 3 EPLなら何でも再生療法を行ったわけではありません。
対象には、再生療法に適した1壁性または2壁性骨内欠損、十分な口腔清掃状態、全顎プラークスコア20%以下、全顎出血スコア20%以下などの条件が設定されていました。
つまり、Grade 3 EPLであることと、再生療法によって改善を期待できる条件を備えたGrade 3 EPLであることは同じではありません。
Kimura氏らとTietmann氏らの研究は、結果が矛盾しているのではなく、対象となった患者、骨欠損、治療内容が大きく異なります。
むしろ両方を読むことで、「重症度だけで治療結果を決めることはできない」ということが見えてきます。
骨欠損の形は「予後」だけでなく「治療可能性」にも関係するのか
ここから先は、今回の研究結果そのものではなく、臨床的に考えられる仮説です。
骨欠損形態は、単に将来の歯の生存を予測するだけでなく、その病変をどこまで治療によって改善できるかとも関係している可能性があります。
限局した骨内欠損と、歯根の両側から根尖まで支持組織が失われた欠損では、歯周組織再生療法を行う際の条件も異なります。
ただし、I-J-U亜分類は再生療法の適応を判定するために作られた分類ではありません。
「Uだから再生不能」「Iだから再生可能」といった使い方はできません。
今後はI-J-Uの形態だけでなく、三次元的な骨壁の残存、歯の動揺、根分岐部、治療反応などを組み合わせた検討が必要でしょう。
I-J-Uを見る前に、歯根の損傷を確認する
臨床では、I・J・Uを分類するより先に確認しなければならないことがあります。
歯根破折などの歯根損傷があるかどうかです。
今回のKimura氏らの研究では、歯根破折、亀裂、外部歯根吸収などが疑われた歯は除外されています。
したがって、深い孤立性ポケットがある、J字状透過像がある、根尖病変があるという歯を見て、「J-shapeなので5年生存率は72.3%程度」と考えるのは順序が逆です。
まず、本当に垂直性歯根破折ではないのか。セメント質剥離ではないのか。穿孔ではないのか。外部歯根吸収ではないのか。
そこを鑑別する。
その後に、歯根損傷のないEPLとしてI-J-Uを追加的な予後情報として考えるべきです。

I-J-Uが登場してもPDやPAIが不要になるわけではない
今回I-J-U亜分類が歯の生存と強く関連したからといって、従来の診査項目が不要になるわけではありません。
Kaplan–Meier解析では、EPL Grade、PAI、PD、動揺度、I-J-U亜分類などが歯の生存と関連しました。
多変量解析でも、I-J-Uを含めないモデルでは年齢、EPL Grade、PAI、骨吸収率、PDが有意でした。
つまりI-J-Uは、これまで見てきた臨床情報を捨てるための分類ではありません。
従来の診査へ、「X線上の骨吸収形態」という情報を追加するものです。
この研究ではどのような治療が行われていたのか
今回の生存率を読むには、どのような治療を受けた歯なのかも知っておく必要があります。
Kimura氏らの研究では、初診時にEPLと診断された場合、基本的に歯内療法を先に行っています。
根管充填後、おおむね3か月程度の観察期間を置いてから歯周治療へ進みました。
まず非外科的歯周治療を行い、再評価後に必要に応じて、歯周外科、歯周組織再生療法、歯根切除などが行われています。
その後は3〜6か月間隔を基本とした個別のSPCへ移行しました。
187歯すべてが非外科的歯周治療を受け、そのうち27.2%では再評価後に外科的処置が行われました。
平均SPC頻度は年間4.4±3.0回です。
つまり今回報告された生存率は、EPLを治療せずに放置した場合の自然経過ではありません。
一定の歯内・歯周治療を受けたEPLについて、その後の歯の生存を評価した研究です。
治療開始前の予後と治療後の予後は分けて考える
今回のI-J-U亜分類は、基本的に治療開始前の情報です。
しかし、実際の臨床では治療後の反応も非常に重要です。
例えば、根管治療後に根尖透過像が縮小した。歯周基本治療後にPDが9 mmから5 mmへ改善した。BOPや排膿が消失した。動揺が改善した。患者のプラークコントロールが大幅に改善した。再生療法後に良好なアタッチメントゲインが得られた。
こうした変化があれば、治療前に立てた予後評価を更新するのが自然です。
逆に、根管治療後も排膿が続く、歯周基本治療後も深いポケットが残る、骨吸収が進行する、動揺が増加する、歯根破折を疑う所見が強くなる、清掃性を確保できない、SPCを継続できないのであれば、予後は悪い方向へ更新されます。
保存困難歯の予後判定でも重要なのは、初診時に未来を一度で言い当てることではなく、診断と治療によって不確実性を減らし、その都度予後を見直すことです。

今回の研究では治療後のPDやBOPを予測因子として評価していない
この点は、今回の研究を臨床へ応用するときにかなり重要です。
Kimura氏らが調べたのは、治療開始前に得られる情報とその後の歯の生存との関連です。
そのため、治療後PD、治療後BOP、治療後動揺度、治療後PAI、治療後の骨高などは主解析には含まれていません。
SPC頻度も治療後に変化する因子であるため、治療前予後を評価する今回の主解析には入れられていません。
つまりI-J-Uは、「治療を始める前の段階で、どの歯が厳しい可能性があるのか」を考えるための情報です。
根管治療や歯周治療への反応まで含めた、最終的な保存・抜歯判定モデルではありません。
U-shapeでも治療反応によって予後は分かれるのか
ここは、今後ぜひ検証してほしいところです。
今回の研究では、U-shapeを治療反応によってさらに分類してはいません。
しかし臨床的には、根管治療後に根尖病変が大きく改善するU-shape、歯周基本治療後にPDが大きく減少するU-shape、再生療法に適した骨欠損を持つU-shape、治療後も深いポケットや排膿が続くU-shape、動揺や骨吸収がさらに進むU-shapeをすべて同じ「U」として扱い続けることが、本当に最適なのかという疑問は残ります。
今回の研究では答えられませんが、将来的には、治療前のI-J-U形態 × 治療後の反応を組み合わせることで、より臨床的な予後評価ができる可能性があります。
「残せる歯」と「残す価値がある歯」は同じではない
保存困難歯では、もう一段考えなければならないことがあります。
技術的に残せることと、その歯を残すことが患者にとって合理的であることは、必ずしも同じではありません。
根管再治療を行い、歯周外科を行い、再生療法を行い、その後に補綴治療まで行えば保存できる可能性がある。
しかし、治療期間が非常に長く、再介入の可能性が高く、最終補綴の支台としても不安定なら、その治療負担まで含めて考える必要があります。
一方で、多少予後が不確実でも、その歯を数年間維持することに大きな意味がある患者もいます。
若い患者であれば、早期抜歯後に長期間続く補綴・インプラント管理まで考える必要があります。
5年生存率という一つの数字だけでは、個々の患者の治療計画は完成しません。
I-J-U亜分類の再現性はどうだったのか
新しい分類を考えるときには、同じ画像を見たときに同じ判定ができるかも重要です。
Kimura氏らは最初の50症例について再測定を行い、評価者内一致度を検討しています。
κ係数は0.83でした。
研究内で同じ評価者が再び判定した際の再現性は良好でした。
ただし、別の歯科医師でも同じように分類できるか。歯周病専門医と一般歯科医で一致するか。異なる施設でも同じ判定になるか。
という評価者間の再現性については、今後さらに検証が必要です。
まだ「新しい標準分類」と呼ぶには早い
I-J-U亜分類は非常に興味深い結果を示しています。
しかし、現時点で、「EPLの新しい標準分類が確立された」と表現するのは早いでしょう。
今回の研究には、単施設の後ろ向き研究であること、大学病院の歯周病外来で重度歯周炎患者が多いこと、治療されたEPLだけが対象であること、治療前に抜歯された歯が含まれていないこと、保存・抜歯判断に術者の裁量が入ること、治療内容が均一ではないこと、治療後の時間依存因子を主解析に含めていないこと、画像評価が二次元に限られることなどの限界があります。
また、別施設の患者集団で同様の結果が再現されるかという外部検証もこれからです。
したがって現段階では、「Kimura氏らが提案した、X線上の骨吸収形態からEPLの予後情報を追加しようとする亜分類」という位置づけが妥当だと思います。
それでもI-J-U亜分類が面白い理由
それでも、この分類には臨床家にとってかなり魅力があります。
まず単純です。
I。J。U。
通常のデンタルX線写真から判定できます。
そして従来の「骨吸収率が何%あるか」という量的な評価だけではなく、「歯根周囲に骨支持がどのような形で残っているか」という情報を扱おうとしています。
臨床家がレントゲンを見ながら感じてきた、「同じ骨吸収率でも、この歯とこの歯では残り方が違う」という感覚を、比較的簡単な形態分類として整理したものとも考えられます。
そして今回、その形態差が実際の長期的な歯の生存と大きく関連しました。
I-J-Uは既存の診断に「予後情報」を加える試み
EPLの古い分類では、歯内病変から始まったのか、歯周病変から始まったのかという病因推定が大きな意味を持っていました。
しかし、長期間経過した複合病変では、どちらが最初だったのかを後から完全に確定することが難しい場合があります。
2017 World Workshopでは、こうした問題も踏まえ、歯根損傷の有無、歯周炎の有無、ポケットの分布など、現在確認できて治療方針に影響する所見を重視する方向へ整理されました。
Kimura氏らのI-J-U亜分類は、その既存の診断体系へさらに、「X線上の骨吸収形態から、長期予後をもう少し細かく考えられないか」という問いを加えたものと見ると分かりやすいでしょう。
診断分類を置き換えるのではありません。
既存の診断へ予後情報を追加しようとする試みです。
実際にU-shapeを見たら何を確認するか
では診療室でU-shapeに見えるEPLを認めたとき、何を確認するでしょうか。
- 歯根破折などの歯根損傷
- 歯髄の状態
- 既根管治療歯なら根管治療の質と再治療可能性
- PDとその分布
- BOP・排膿
- 動揺度
- 根分岐部病変
- 骨欠損形態
- 再生療法の可能性
- 残存歯質
- フェルールを含めた修復可能性
- 最終補綴が成立するか
- 咬合負担
- 清掃状態
- SPCを継続できるか
- 歯列・補綴計画の中でその歯にどのような役割があるか
- 患者本人がどこまでの治療を希望するか
こうした情報を統合して、初めて保存か抜歯かという治療計画になります。
I-J-Uは重要な情報です。しかし、その中の一つです。

「13.4%」という数字だけを覚えない
今回、最も印象に残る数字は、U-shapeの5年推定生存率13.4%でしょう。
しかし、この数字だけを覚えてしまうと少し危険です。
本当に考えるべきなのは、なぜU-shapeで予後が悪かったのか。ということです。
U-shape群では、平均骨吸収率88.2%、最深部平均PD 9.6 mm、動揺度2〜3が61.2%、PAI 4〜5が65.3%、Grade 3が69.4%という、かなり厳しい治療開始前の背景がありました。
それでも多変量解析でU-shapeが強い関連を残した。
だからこそ、この分類は興味深いのです。
同時に、その不利な条件のうち、何が治療によって変えられるのか。という問いも残ります。
根管内感染の制御、歯周炎症のコントロール、プラークコントロール、必要に応じた再生療法、咬合管理、SPC。こうしたものには介入できます。
一方、修復不能な歯根破折などは全く違う意味を持ちます。
予後評価とは、悪い因子を数えて抜歯を決める作業ではなく、変更可能なリスクと変更困難なリスクを分ける作業でもあります。

おわりに――I-J-U亜分類はEPLの予後評価を少し精密にできるか
Kimura氏らの研究から、明日からEPLの治療ガイドラインが変わるわけではありません。
I-J-U亜分類だけで、保存か抜歯かを決めることもできません。
それでも、I-shape 93.0%、J-shape 72.3%、U-shape 13.4%という大きな5年推定生存率の差が示されました。
さらにI-J-Uを予測モデルへ加えることで、5年時点のAUCは0.77から0.85へ改善しました。
これまでの「EPLだから予後が悪い」「骨吸収が大きいから厳しい」という大まかな評価に加えて、骨吸収が歯根周囲にどのような形で広がっているかを見ることで、治療開始前の予後評価をもう少し精密にできる可能性があります。
一方で、選択されたGrade 3 EPLでは、歯内療法と歯周組織再生療法を組み合わせることで最大7年間良好に保存された報告もあります。
また、歯が残っている「生存」と、病的所見まで改善した「成功」は同じではありません。
だからこそ、現時点でI-J-U亜分類を臨床に取り入れるなら、「I-J-Uで抜歯を決める」のではなく、「I-J-Uによって治療開始前の予後評価を少し精密にし、その後は治療反応を見ながら予後を更新する」という位置づけが最も妥当なのではないでしょうか。
予後は、初診時のレントゲン写真だけで固定されるものではありません。
治療前にリスクを見積もる。治療によって不確実性を減らす。治療への反応を確認する。そして、その結果を受けてもう一度予後を考える。
EPLのように歯内・歯周の双方が関係する複雑な病変ほど、この繰り返しが重要なのだと思います。
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