2026年10月29日

(歯科衛生士さんのある日の日誌)

はじめに――歯垢の付着割合は低いのに、虫歯菌の検査レベルは高い?
こんにちは。ブランデンタルクリニックの歯科衛生士です。
歯科医院で定期的なメンテナンスを受ける際、プラーク(歯垢)を染め出し、どこに磨き残しがあるのかを確認することがあります。
自分ではきれいに磨いているつもりでも、奥歯の内側や歯と歯の間にプラークが残っていることがあります。反対に、以前よりも磨き残しが減り、良い状態を保てるようになった方もいらっしゃいます。
歯科衛生士としては、そうした変化を見ることができるのはうれしいものです。ただ、虫歯のなりやすさは、歯垢がどのくらいついているかという一つの数字だけで決まるわけではありません。
「毎日しっかり歯磨きをしているのに、どうして虫歯になるのでしょうか?」
「年齢を重ねると、虫歯菌も増えてしまうのですか?」
「昔より丁寧に磨いているつもりなのに、歯の根元に虫歯ができました」
こうした疑問を考えるうえで、興味深い研究結果が広島大学から発表されました。
2026年10月、広島大学は、若年者と高年齢者の唾液に含まれる細菌を比較した研究成果を紹介しました。研究の対象となったのは340人。そのうち88検体について、細菌の種類や構成を詳しく解析しています。
この研究で特に意外だったのは、次のような結果です。
若年群では、プラークが付着していた歯面の割合の中央値が54.0%でした。一方、高年齢群では26.0%でした。つまり、今回の研究では、高年齢群の方がプラークの付着した歯面の割合が低かったのです。
ところが、虫歯に関係するミュータンス連鎖球菌の検査レベルは、若年群より高年齢群の方が有意に高くなっていました。さらに、唾液中の総細菌数には統計学的に有意な群間差が確認されませんでした。
歯垢の付着割合は低いのに、虫歯に関係する細菌の検査レベルは高い。細菌全体が明らかに増えていたわけでもない。
いったい、これはどういうことなのでしょうか。
「年齢を重ねると歯磨きが難しくなり、口の中に細菌が増えるから虫歯が増える」。そのような単純な説明だけでは、今回の結果を十分に理解できそうにありません。
もちろん、今回の研究は、同じ人を若い頃から何十年も追い続けたものではありません。年齢そのものが細菌の変化を引き起こしたと証明されたわけではないことには注意が必要です。
それでも、日頃の虫歯予防を考えるうえで、さまざまなことを教えてくれる研究だと思います。
今回は、この広島大学の研究を中心に、年齢と唾液細菌の関係、虫歯菌の検査レベルと細菌叢の違い、唾液の防御機能、歯の根元にできる虫歯、そして年齢を重ねても自分の歯を守るために大切なことを、詳しくお話ししていきます。
広島大学が340人を比較――若年群229人、高年齢群111人

今回取り上げるのは、広島大学病院口腔検査センターなどの研究グループによる論文です。
論文タイトルは、Age-related shifts in the salivary microbiome linked to cariogenic changes: A cross-sectional study。
日本語では、「う蝕原性の変化と関連する唾液マイクロバイオームの年齢群間の違いを調べた横断研究」といった意味になります。
2026年10月4日に『Journal of Dentistry』のオンライン版で公開されました。掲載巻は2027年の176巻で、論文番号は107091です。研究の目的は、若年者と高年齢者の唾液に含まれる細菌の特徴や、虫歯リスクに関連する検査項目を比較することでした。
研究に参加した人たちは?
研究では、広島大学病院で唾液のう蝕リスク検査を受けた患者さんのデータを調べています。
最初に検討されたのは582人でした。そこから、今回の比較対象としない年齢層の214人、検査前14日以内に抗菌薬を使用した26人、特定の先天的な歯の異常などがあった2人を除外し、最終的に340人が解析対象となりました。
内訳は次のとおりです。
- 若年群: 12〜35歳の229人。年齢の中央値は17歳。
- 高年齢群: 50歳以上の111人。年齢の中央値は65歳。
参加者はいずれも、少なくとも20本の歯を有していました。つまり、歯をほとんど失っている方や、総義歯を使用している方を含めた高齢者全体の調査ではありません。
また、若年群の年齢中央値が17歳だったことも重要です。30代の成人と60代の成人を比較した研究ではなく、10代を多く含む若年群と、50歳以上の高年齢群を比較しているのです。
若年群と高年齢群では、歯科医院に通う理由も違いました
この研究を読むうえで、特に注意したいことがあります。
若年群は矯正治療を受けていた患者さんでした。一方、高年齢群はインプラント治療やメンテナンスを受けていた患者さんでした。
矯正治療を受けている方と定期メンテナンスを受けている方では、年齢以外にも異なる条件がある可能性があります。例えば、矯正装置の有無、歯列の状態、残存歯数、これまでの治療歴、清掃指導を受けた経験などです。
若年群に矯正装置が装着されていた場合には、その種類によっても清掃のしやすさが変わる可能性があります。そのため、今回認められた群間差をすべて「年齢の違い」だけで説明することはできません。
また、今回の比較には36〜49歳の人が含まれていません。50歳になった瞬間に細菌叢が変化するのか、40代から変化し始めるのか、といった年齢の境界を調べた研究でもありません。
同じ人を何十年も追跡した研究ではありません
今回の研究は「横断研究」と呼ばれます。異なる年齢の人たちのデータを比較し、その違いを調べています。
17歳の人を何十年も追い続け、65歳になったときに再び同じ検査をしたわけではありません。そのため、研究結果は「今回比較した高年齢群では、若年群と異なる唾液細菌の特徴が見られた」という意味で理解する必要があります。
「年齢を重ねれば誰でも同じ変化が起きる」と結論することはできません。この点を踏まえながら、実際の検査結果を見ていきましょう。
340人の唾液検査と、88検体の細菌叢解析は何が違う?
今回の研究では、大きく分けて2種類の検査が行われました。一つは340人を対象とした唾液のう蝕リスク検査や口腔内の評価。もう一つは、その中から選ばれた88検体に対する唾液中の細菌叢の詳しい解析です。
どちらも口の中の状態を調べるものですが、検査でわかることは同じではありません。
340人の検査では何を調べたのでしょうか?
唾液のう蝕リスク検査では、次のような項目が調べられました。
- 刺激唾液量
- 唾液のpH
- 唾液緩衝能
- ミュータンス連鎖球菌の検査レベル
- 乳酸桿菌の検査レベル
- Candidaの検出状況
- 唾液中の総細菌数
さらに、診療記録からプラークコントロールレコード(PCR)やDMFT指数も確認しています。
刺激唾液量は、味のないガムを5分間かんで、出てきた唾液を集める方法で測定されました。一方、ミュータンス連鎖球菌については、舌の表面から専用の検査ストリップで試料を採取し、培養した結果を段階的なレベルで評価しています。
つまり、これらはすべて同じ試料を同じ方法で測定した結果ではありません。
88検体では16S rRNA遺伝子解析を行いました
細菌叢を詳しく調べるため、若年群から30検体、高年齢群から58検体が選ばれました。合計88検体です。
使用されたのは16S rRNA遺伝子解析という方法です。細菌が持つ遺伝子の特定の部分を調べることで、どのような細菌群が存在しているか、その構成がどのようになっているかを推定できます。
従来の培養検査では、検査条件で増殖できる細菌を調べます。それに対して、16S rRNA解析では、培養しにくい細菌も含めて、より広く細菌叢の構成を調べることができます。
ただし、DNAが検出されたからといって、その細菌が生きて活発に活動していると証明されたわけではありません。また、ある菌の相対的な割合が高いことと、その菌の絶対数が増えたことも同じではありません。
細菌が持つと考えられる遺伝子機能も推定しました
今回の研究では、細菌叢の構成データをもとに、糖の取り込みや代謝などに関係する遺伝子機能も推定しています。この解析にはPICRUSt2という方法が使われています。
ただし、細菌が実際にどれだけ糖を分解したのか、どれだけ酸を産生したのかを直接測定したわけではありません。
今回の研究には、細菌の検査レベル、細菌叢の構成比、遺伝子機能の推定値という、性質の異なる情報が含まれています。それぞれを区別して考えることが、結果を正しく理解するために大切です。
唾液検査の結果――高年齢群ですべてが悪くなったわけではありません
それでは、340人の検査で何がわかったのでしょうか。
まず、虫歯に関係するミュータンス連鎖球菌の検査レベルは、若年群の中央値が0、高年齢群が2でした。乳酸桿菌の検査レベルも、若年群0、高年齢群1でした。いずれも高年齢群の方が統計学的に有意に高くなっています。
しかし、ほかの検査項目を見ると、結果はもう少し複雑です。
刺激唾液量には有意差がありませんでした
刺激唾液量の中央値は、若年群1.3mL/分、高年齢群1.2mL/分でした。統計学的な検定ではp=0.22で、有意な群間差は確認されませんでした。
今回の高年齢群では、刺激唾液量が明確に少なくなっていたとは言えません。ただし、有意差が確認されなかったことは、両群の唾液量が完全に同じであると証明されたことではありません。
唾液のpHは高年齢群の方が高い結果でした
唾液pHの中央値は、若年群7.6、高年齢群7.7でした。高年齢群の方が有意に高くなっていました。
ただし、中央値の差は0.1です。統計学的に有意な違いがあることと、その違いが実際の虫歯予防にどの程度の意味を持つかは、別に考える必要があります。
緩衝能も高年齢群の方が高くなっていました
唾液緩衝能の測定値は、若年群6.6、高年齢群6.7でした。こちらも高年齢群の方が有意に高い結果でした。
緩衝能は、酸性に傾いた環境を中和する唾液の働きに関係します。そのため、緩衝能が高いことまで「虫歯リスクが悪化していた」とまとめるのは適切ではありません。
総細菌数には有意差がありませんでした
唾液中の総細菌数の中央値は、若年群41.7×10⁴ CFU/mL、高年齢群45.1×10⁴ CFU/mLでした。検定結果はp=0.40で、統計学的な有意差は確認されませんでした。
つまり、高年齢群で唾液中の細菌全体が明らかに増えていたという結果ではありません。
プラーク付着率は高年齢群の方が低かったのです
そして今回、特に興味深いのがプラークコントロールレコードです。若年群54.0%、高年齢群26.0%でした。
高年齢群の方が、プラークが付着していると判定された歯面の割合が低かったのです。
このように、虫歯に関係する細菌の検査レベルは高年齢群で高かった一方、プラーク付着率は低く、緩衝能は高く、刺激唾液量と総細菌数には有意差がありませんでした。
今回の研究は、年齢が高い人では口腔内のすべての指標が同じ方向に悪化している、という単純な結果ではなかったのです。
歯垢の付着率54%対26%――なぜ高年齢群の方が低かったのでしょう?

今回の研究で用いられたプラークコントロールレコードは、歯の表面を染め出し、プラークが付着している歯面の割合を評価するものです。この数値は、プラークの総重量や、含まれる細菌の総数を直接表しているわけではありません。
今回、高年齢群ではその値が26%と、若年群の54%より低くなっていました。
メンテナンスや清掃指導の経験が関係していた可能性
原著の著者らは、高年齢群では歯科医院で清掃指導を受けていたことや、良好な口腔清掃習慣が形成されていた可能性を考察しています。
今回の高年齢群には、定期的なメンテナンスを受けていた患者さんが含まれています。一方、若年群は矯正治療を受けている患者さんでした。
矯正治療中は、装置の種類や歯列の状態によって清掃しにくい場所が生じることがあります。こうした違いが、プラーク付着率の群間差に影響した可能性は考えられます。
ただし、今回の研究でメンテナンスの有無を無作為に割り付けたわけではありません。「メンテナンスによってプラーク付着率が54%から26%に改善した」という研究結果ではないことには注意が必要です。
磨き残しが少なければ、虫歯にならないのでしょうか?
プラークを取り除くことは、虫歯予防の基本です。しかし、プラークの付着割合が低いことだけで、将来の虫歯が発生しないと保証できるわけではありません。
虫歯の発生には、プラークの存在に加えて、糖質の摂取、局所的な酸産生、歯の耐酸性、唾液、フッ化物などが関係します。
また、染め出し検査は、その時点のプラーク付着状況を調べるものです。普段の食生活や、数年前から続いている虫歯リスクまで直接測定しているわけではありません。
今回の研究は歯磨きの重要性を否定するものではありません。むしろ、清掃状態の確認だけで虫歯リスクの評価を終わらせず、ほかの要因も一緒に見る必要があることを考えさせてくれます。
歯磨きの回数と、実際に磨けている場所の違いについては、以前の「歯磨きしているのに虫歯になる理由」でも詳しく紹介しています。
ミュータンス連鎖球菌は0対2――虫歯菌が2倍になったという意味?

ミュータンス連鎖球菌は、虫歯に関係する細菌群としてよく知られています。糖質から酸をつくる能力や、歯の表面に付着するバイオフィルムの形成などに関係します。
今回の研究では、このミュータンス連鎖球菌の検査レベルが高年齢群で有意に高くなっていました。ただし、「0対2」という数字には注意が必要です。
検査レベルと菌の絶対数は違います
今回用いられたのは、培養後の結果を段階的に分類する半定量検査です。若年群の中央値0、高年齢群の中央値2という結果は、高年齢群で検査レベルが高かったことを示しています。
しかし、菌数が2倍だったという意味ではありません。また、若年群の中央値が0だったからといって、若年群全員の口の中にミュータンス連鎖球菌が存在しなかったわけでもありません。
検査レベルをそのまま菌数の倍率として読み替えないことが大切です。
乳酸桿菌も高年齢群で高くなっていました
乳酸桿菌の検査レベルは、若年群0、高年齢群1でした。こちらも高年齢群で有意に高い結果です。
乳酸桿菌は、虫歯病変の進行などとの関連が研究されてきた菌群です。ただし、乳酸桿菌にはさまざまな種類があり、食品に含まれる乳酸菌と、虫歯病変に関連する菌を、名前が似ているというだけで同一視することはできません。
Candidaには有意な群間差がありませんでした
今回の研究ではCandidaについても検査しています。高年齢群で陽性割合が高い傾向はありましたが、統計学的な検定結果はp=0.06で、通常の5%という有意水準では有意差が認められませんでした。
すべての微生物で高年齢群の方が有意に高かったわけではないことも、結果の一部として理解する必要があります。
オッズ比1.80は「虫歯になるリスクが1.80倍」ではありません
原著では、多変量ロジスティック回帰分析も行われています。そこでは、ミュータンス連鎖球菌レベルにオッズ比1.80、唾液緩衝能にオッズ比2.20という値が報告されています。
ただし、この解析は年齢群と検査項目との関連を評価したものであり、将来の虫歯発生を目的変数とした予測モデルではありません。
そのため、これらのオッズ比を「虫歯になる確率が1.80倍、2.20倍になる」という意味で説明することはできません。統計の数字を読むときには、何と何を比較した結果なのかを確認することが重要です。
刺激唾液量に有意差がなくても、細菌叢には違いがある?

年齢と虫歯リスクの話では、「高齢になると唾液が少なくなる」という説明を聞くことがあります。確かに、唾液分泌低下は虫歯リスクに関係する重要な要因です。
しかし、今回の研究では刺激唾液量に有意な群間差がありませんでした。
刺激唾液と安静時唾液は違います
今回測定されたのは、ガムをかんで集めた刺激唾液です。何もしていないときに自然に分泌される安静時唾液とは異なります。
そのため、刺激唾液量に有意差がないことから、安静時の唾液量や夜間の口腔乾燥まで同じであるとは言えません。口が乾く自覚症状があるかどうかも、今回の結果だけでは判断できません。
唾液のpHと、歯垢の中のpHは同じではありません
今回の唾液pHは若年群7.6、高年齢群7.7でした。高年齢群の方が有意に高い結果でしたが、これを「虫歯ができにくい状態だった」と直接結論することはできません。
なぜなら、採取した唾液全体のpHと、歯の表面についたプラーク内部のpHは同じではないからです。
糖質を摂取すると、プラーク内の細菌が糖を利用して酸を産生します。その結果、歯の表面の局所的な環境が酸性に傾くことがあります。
唾液全体のpHが7.7でも、プラーク内で一時的にそれより低いpHになることは考えられます。ただし、広島大学の研究では、食後のプラークpHの変化を直接測定したわけではありません。
緩衝能が高いことと、虫歯菌レベルが高いことは矛盾しません
唾液緩衝能は、酸性に傾いた環境を中和し、pHを回復させる方向に働く能力です。
今回の高年齢群では、緩衝能の測定値が有意に高くなっていました。一方、ミュータンス連鎖球菌の検査レベルも高くなっていました。
これは、細菌側の要因と、唾液による防御側の要因が、それぞれ異なることを示す興味深い組み合わせです。虫歯リスクを考えるときには、細菌がどのくらいいるかだけでなく、歯を守る働きがどのような状態にあるかも考える必要があります。
総細菌数は有意差なし――大切なのは「数」と「顔ぶれ」の違い
今回、唾液中の総細菌数には有意な群間差がありませんでした。しかし、細菌叢の構成には違いが見られています。この二つは同じ意味ではありません。
例えば、同じ1,000人が暮らす二つの町でも、子どもや高齢者の割合、職業、生活習慣などが同じとは限りません。人口がほぼ同じでも、町の中身は異なることがあります。
口腔細菌叢についても、似た考え方ができます。細菌全体の数に明確な差がなくても、ある菌群の割合が高くなったり、別の菌群が少なくなったりする可能性があります。
その結果、細菌叢全体が持つ代謝機能にも違いが生じるかもしれません。ただし、今回の研究では、同じ人の細菌が時間とともに増減した過程を直接追跡したわけではありません。
あくまで異なる集団の検査結果を比較したものです。それでも、総細菌数だけではわからない細菌叢の違いを調べることに、16S rRNA解析の意義があります。
DMFT指数0対16――現在の虫歯が16本あったの?

今回の研究では、DMFT指数にも大きな群間差がありました。若年群の中央値は0、高年齢群は16でした。
この数字を見ると、高年齢群では現在16本の虫歯があるように感じるかもしれません。しかし、それはDMFT指数の正しい読み方ではありません。
DMFTは過去からの虫歯経験を反映する指標です
DMFTのDは未処置のう蝕歯、Mはう蝕によって失われた歯、Fはう蝕によって充填などの治療を受けた歯を表します。それらを合計したものがDMFT指数です。
つまり、現在進行している虫歯だけを数えているわけではありません。過去に受けた虫歯治療や、虫歯によって歯を失った経験も含まれます。
高年齢群の中央値が16だったということは、累積的な虫歯経験が若年群より大きかったことを示しています。しかし、現在16本の未処置虫歯があったという意味ではありません。
また、今回の研究では新しい虫歯の発生を追跡していないため、「高年齢群では今後も虫歯が16本増える」といった予測もできません。
根面う蝕についても別の評価が必要です
DMFT指数では、歯の根元にできる根面う蝕を独立して詳しく評価することはできません。そのため、今回のDMFTの差から「高年齢群で根面う蝕が多かった」と結論することもできません。
年齢と虫歯リスクの関係を考えるときには、過去の虫歯経験と、現在の口腔内に存在する病変、そして将来の新規う蝕リスクを区別する必要があります。
細菌の多様性は低下した?実は4つの指標で結果が違いました

ここからは、88検体の細菌叢解析について見ていきます。
広島大学の研究発表では、高年齢群で細菌の多様性が低下していたと紹介されています。ただし、原著論文を詳しく読むと、すべての多様性指標が同じ方向に変化していたわけではありません。
実際には、4つの指標で異なる結果が示されていました。
細菌の多様性には、いくつかの意味があります
口の中にはさまざまな種類の細菌が存在しています。細菌叢の多様性を評価するときには、単に何種類の菌がいるかだけではなく、それぞれの菌がどの程度の割合で存在しているかも考えます。
例えば、10種類の菌が存在していて、そのうち1種類が全体の90%を占めている場合と、10種類が比較的均等に存在している場合では、細菌叢の特徴は異なります。
このように、種類の豊富さと分布の均等性は別の概念です。
Observed featuresは高年齢群で低い結果でした
Observed featuresは、検出された配列上の特徴の豊富さを示す指標です。今回の研究では、高年齢群の方が有意に低くなっていました。
これは、解析で観測された細菌の種類の豊富さに関係する指標が、高年齢群で低かったことを示しています。
Faith’s PDも高年齢群で低くなっていました
Faith’s PDは、細菌同士の系統的な関係を考慮した多様性の指標です。単に種類の数を数えるだけではなく、どの程度異なる系統の細菌が含まれているかを評価します。
この指標も、高年齢群の方が有意に低い結果でした。
ところがPielou’s evennessは高年齢群の方が高かったのです
Pielou’s evennessは、細菌の分布の均等性を示す指標です。今回の研究では、高年齢群の方が有意に高くなっていました。
つまり、種類の豊富さや系統的多様性に関する一部の指標は高年齢群で低かった一方、分布の均等性は高かったのです。
Shannon indexには有意差がありませんでした
Shannon indexは、種類の豊富さと均等性の両方に関係する指標です。今回、この指標では若年群と高年齢群の間に統計学的な有意差が確認されませんでした。
したがって、「高年齢群では4つの多様性指標がすべて低下した」という説明は正確ではありません。
今回の研究では、種類の豊富さに関連する指標は低下し、均等性は上昇し、別の総合指標では明確な差がなかったという、複合的な結果が得られています。
細菌の多様性は高いほど健康なのでしょうか?
ここで考えたいのは、多様性が高いことがそのまま健康を意味するのかという問題です。実は、そう単純ではありません。
例えば、2017年にZhouらが発表した研究では、非活動性の虫歯を有する21人と虫歯のない22人、計43人の唾液細菌叢を比較しています。
その結果、調べたα多様性の指標には統計学的な有意差が認められませんでした。一方、細菌同士の共存パターンや、唾液pH、鉄濃度との関連などが報告されています。
この研究と広島大学の研究は、対象者も方法も異なるため直接比較はできません。それでも、細菌叢の多様性を一つの数字だけで健康・不健康と判断することの難しさを考える材料になります。
細菌の種類が多いほど良い、少ないほど悪いという単純な話ではないのです。
若年群と高年齢群では、細菌叢全体の構成も違っていました

細菌の多様性には、α多様性のほかにβ多様性という考え方があります。
α多様性が、一つの試料の内部にどのような細菌が存在するかを評価するのに対して、β多様性は異なる試料同士の細菌叢がどの程度似ているかを評価します。
今回の研究では、Bray–Curtis、Jaccard、unweighted UniFrac、weighted UniFracという4種類の指標が使われました。いずれの指標でも、若年群と高年齢群の間に有意な差が認められています。p値はいずれも0.001でした。
同じ細菌がいても、構成比は違うことがあります
例えば、若年群と高年齢群の両方にStreptococcus属やPrevotella属が存在していても、それぞれの割合が同じとは限りません。また、ある群で特徴的な菌が、別の群では少ないこともあります。
今回のβ多様性解析は、年齢の異なる2群で唾液細菌叢の構成が異なっていたことを支持しています。ただし、それが年齢そのものによって生じたと証明するものではありません。
以前の「赤ちゃんの口内細菌は“環境”、大人は“遺伝”の影響?双子3387組を調査」でも紹介したように、口腔細菌叢には環境や宿主側の要因が複雑に関わっています。
今回の広島大学研究では、年齢群間の違いが見つかったという点に価値がありますが、その違いを生み出した個々の要因については、さらに研究が必要です。
虫歯菌レベルは高いのに、Streptococcus属全体の割合は低かった?

今回の研究には、一見すると不思議に思える結果がもう一つあります。
高年齢群では、ミュータンス連鎖球菌の検査レベルが高くなっていました。ところが、16S解析によるStreptococcus属全体の平均相対存在割合は、若年群の方が高かったのです。
若年群は31.1%、高年齢群は16.1%でした。なぜ、このような違いがあるのでしょうか。
Streptococcus属にはさまざまな菌が含まれます
ミュータンス連鎖球菌は、Streptococcus属に含まれる菌群の一部です。しかし、Streptococcus属の菌がすべて同じ働きを持っているわけではありません。
口腔内には、ミュータンス連鎖球菌以外にもさまざまなStreptococcus属の菌が存在します。そのため、Streptococcus属全体の構成比が高いことと、ミュータンス連鎖球菌の検査レベルが高いことは、同じ意味ではありません。
そもそも検査方法も違います
ミュータンス連鎖球菌の検査は、舌背から採取した試料を培養する半定量検査でした。一方、Streptococcus属全体の構成比は、唾液から抽出したDNAの16S解析によるものです。
試料の採取場所、測定方法、調べた対象、数値の意味が異なります。したがって、結果が違う方向を示しているからといって、直ちに矛盾するものではありません。
「虫歯菌が多い」という言葉はわかりやすい表現ですが、実際には、どの菌を、どの場所から、どの方法で調べたのかを確認する必要があるのです。
高年齢群ではどんな細菌が目立った?ActinomycetotaとPrevotella

今回の研究では、年齢群によって特徴的な細菌群も調べられています。
高年齢群では、Actinomycetotaという細菌群がLEfSe解析で特徴的な分類群として抽出されました。一方、若年群ではStreptococcaceaeという細菌科が特徴的でした。
Actinomycetotaとは?
Actinomycetotaは、細菌を分類する大きなグループの名前です。この中には、口腔内に生息するActinomyces属などが含まれます。
ただし、Actinomycetotaという大きな分類群と、Actinomyces属という個別の分類群は同じものではありません。Actinomycetotaが高年齢群で特徴的だったからといって、その中に含まれるすべての菌が増加したという意味ではありません。
原著では、Actinomyces属の平均相対存在割合は、高年齢群5.8%、若年群4.7%でした。
Actinomyces属には健康な口にも存在する菌が含まれますが、露出した歯根面や根面う蝕との関連が研究されている菌もあります。菌の名前だけで、健康に良い菌か悪い菌かを単純に決めることはできません。
Prevotella属も高年齢群で相対割合が高くなっていました
Prevotella属の平均相対存在割合は、高年齢群14.2%、若年群11.5%でした。
Prevotella属にもさまざまな種類があり、健康な口腔内に存在するものや、歯周病などとの関連が研究されているものがあります。ただし、属名が同じというだけで、すべての菌が同じ病原性を持つわけではありません。
なお、ActinomycetotaがLEfSe解析で高年齢群の特徴として抽出されたことと、Prevotella属の平均相対存在割合が高年齢群で高かったことは、同じ統計学的な結果を意味するわけではありません。
また、16S解析で得られる相対存在割合が高いことは、菌の絶対数が同じ割合だけ増加したことを意味しません。
今回の結果は、高年齢群と若年群で菌の構成に違いがあったことを示していますが、個々の菌が実際にどのような働きをしていたかまでは確定できません。
高年齢群では糖を分解する働きも変わる?遺伝子機能解析の結果

広島大学の研究では、細菌叢の構成だけでなく、糖の取り込みや代謝に関係する遺伝子機能にも違いが見られる可能性が示されています。
虫歯を考えるうえで糖代謝は重要なテーマですが、この部分は特に慎重に読む必要があります。
PICRUSt2で遺伝子機能を推定しました
今回の研究では、16S rRNA解析で得られた細菌叢の構成情報から、PICRUSt2という方法を用いて遺伝子機能を推定しています。
つまり、細菌叢を構成する菌群の情報から、その集団がどのような遺伝子機能を持っている可能性があるかを調べています。実際に糖を与えて、糖の消費量や酸産生量を直接測定したものではありません。細菌の遺伝子発現量を測定したものでもありません。
糖の輸送や分解に関わる機能の一部は高年齢群で高くなっていました
原著のTable 3には、糖の取り込みや代謝に関係する複数の機能が示されています。糖輸送系のEIIAやHPr、糖質の分解に関係するα-グルコシダーゼなどの推定存在量は、高年齢群で高くなっていました。
この結果は、高年齢群の細菌叢が持つと予測される糖代謝関連機能の構成が、若年群と異なる可能性を示しています。
すべての糖代謝関連機能が高かったわけではありません
ここで注目したいのが、乳酸脱水素酵素に関する結果です。この機能の推定存在量は、高年齢群10,944.90、若年群12,643.43でした。高年齢群の方が低く、調整後p値は0.033でした。
つまり、糖代謝に関係する項目がすべて高年齢群で上昇したわけではありません。
研究全体では糖の取り込みや代謝、嫌気的な代謝に関連する機能の違いが示唆されていますが、すべての指標が同じ方向に変化していたと説明するのは正確ではありません。
糖代謝の予測値が違っても、実際の虫歯発生はまだわかりません
今回の解析は、細菌叢に基づく機能予測です。実際の酸産生量、食後のプラークpHの変化、新しくできた虫歯の数などは測定されていません。
したがって、「高年齢群では細菌がより多く酸を産生していた」「高年齢群の虫歯が実際に速く進行していた」と断定することはできません。
今回の研究は、将来の虫歯リスク評価につながる可能性のある手がかりを示したものです。その手がかりが、実際の虫歯発生をどれほど正確に予測できるのかについては、今後の研究が必要です。
虫歯菌をゼロにすれば予防できる?細菌叢のバランスという考え方

ここまで、さまざまな細菌の名前が登場しました。少し難しく感じられたかもしれません。
ただ、今回の研究を理解するために大切なのは、個々の細菌の名前をすべて覚えることではありません。
虫歯は、特定の一種類の菌が存在するだけで発症する病気ではないということです。
口の中の細菌は、周囲の環境の影響を受けています
口の中には多くの細菌が共存しています。その構成や働きは、糖質の供給、pH、唾液、酸素、歯の表面の状態、ほかの細菌との関係などによって変化する可能性があります。
こうした考え方を説明する重要な理論の一つが、生態学的プラーク仮説です。
生態学的プラーク仮説とは?
糖質を含む飲食物を頻繁に口にすると、プラーク内の細菌は繰り返し糖を利用し、酸を産生します。
酸性に傾く時間が長くなると、酸をつくる能力や酸に耐える能力を持つ菌が有利になりやすくなります。その結果、プラーク内の細菌叢の構成が変化し、歯の脱灰が進みやすい環境につながる可能性があります。
このような微生物群集のバランスの変化は、ディスバイオシスと呼ばれます。
2024年の日本歯科衛生学会雑誌に掲載された仲井雪絵先生の総説でも、この生態学的プラーク仮説が詳しく説明されています。
菌を全部なくすことが予防の目標ではありません
ミュータンス連鎖球菌は虫歯に関係する重要な菌群ですが、それ以外にも酸を産生する菌は存在します。
口の中の細菌をすべてなくすことは現実的ではなく、それ自体が虫歯予防の目的でもありません。
大切なのは、歯の表面で酸性環境が続きやすい状態を減らし、脱灰と再石灰化のバランスを保つことです。そのために、適切な口腔清掃、糖質摂取の管理、フッ化物の利用などが重要になります。
以前の「虫歯になりやすいのはどんな人?」でも紹介しましたが、虫歯リスクは細菌だけでなく、歯の状態や唾液、食生活などの組み合わせで考える必要があります。
今回の広島大学研究は、そうした複雑な口腔環境を理解するための新しい材料を提供してくれたと考えられます。
同じ口の中でも、唾液の洗い流す速さは場所によって違います

唾液には、口の中を潤すだけでなく、糖質や酸などを薄めて洗い流す働きがあります。また、酸性に傾いた環境を中和したり、歯の再石灰化に必要な成分を供給したりする役割も持っています。
しかし、唾液が口の中のすべての場所で同じように働いているわけではありません。
唾液クリアランスとは?
唾液には、口の中にある物質を薄め、嚥下などを通じて取り除く働きがあります。これを唾液クリアランスと呼びます。
糖を含む飲み物を飲んだあと、口の中の糖質がいつまでも同じ濃度で残るわけではありません。唾液によって希釈され、飲み込むことなどによって取り除かれていきます。ただし、その速さは場所によって違います。
下の前歯の内側と上の前歯の外側では、約4倍の違い
明海大学の渡部茂先生による「唾液と口腔内pH――緩衝能の正しい理解」では、口腔内のさまざまな場所で、指標物質の濃度が半分になるまでの時間を比較した実験が紹介されています。
その結果、下顎前歯の舌側では比較的早く、上顎前歯の唇側では遅くなっていました。両者の半減時間には約4倍の差が認められました。
これは唾液の絶対流量が4倍違ったという意味ではありませんが、同じ口の中でも物質が洗い流される状況が大きく異なることを示しています。
唾液量が同じでも、すべての歯が同じように守られるとは限りません
今回の広島大学研究では、刺激唾液量に有意な群間差はありませんでした。
しかし、口全体の唾液量が同程度でも、個々の歯面に届く唾液の量や、物質が洗い流される速さまで同じとは限りません。
歯の位置、唾液腺の開口部、歯肉の形態、プラークの停滞状況などによって、局所的な環境は変わります。歯科衛生士が特定の歯面に注目する理由の一つは、こうした場所ごとの違いにあります。
年齢を重ねると、虫歯ができやすい場所も変わる?歯根面の問題

ここからは、成人・高年齢者の虫歯予防で重要になる根面う蝕についてお話しします。
根面う蝕とは、歯肉退縮などによって露出した歯根面に発生する虫歯です。
なお、今回の広島大学研究では根面う蝕の発生を直接測定していません。 ここから紹介する内容は、根面う蝕に関する別の研究や診療指針に基づく説明です。
歯冠部と歯根面では、歯を構成する組織が違います
歯の頭の部分である歯冠部は、主にエナメル質で覆われています。エナメル質は非常に硬く、無機質を多く含む組織です。
一方、歯根面にはセメント質や象牙質があります。これらの組織はエナメル質とは構成が異なり、酸に対する抵抗性にも違いがあります。
歯根面は、比較的高いpHでも脱灰する可能性があります
一般に、エナメル質の脱灰が起こりやすくなるpHの目安として約5.5が知られています。一方、象牙質では約6.0〜6.3という、より高いpHでも脱灰が起こり得るとされています。
ただし、実際の臨界pHは、局所のカルシウム、リン酸、フッ化物などの条件によって変化します。そのため、pH5.5や6.0という数字を絶対的な境界線として考えることはできません。
それでも、露出した歯根面がエナメル質より酸の影響を受けやすいことは、虫歯予防で重要な特徴です。
歯ぐきが下がると、これまで覆われていた場所が露出します
歯肉退縮が起きると、それまで歯ぐきに覆われていた歯根面が口の中に露出します。そこにプラークが付着することで、根面う蝕が発生する可能性があります。
歯肉退縮には、歯周病、歯肉や骨の形態、ブラッシングによる機械的刺激など、さまざまな要因が関係します。年齢だけが原因ではありません。
歯を長く残せる時代だからこそ、歯根面を守る必要があります
厚生労働省の令和6年歯科疾患実態調査では、8020達成者の割合が61.5%と推計されました。
これは、75歳以上85歳未満の20本以上の歯を有する人の割合から推計された値です。2024年調査の割合は、各都道府県の人口規模を反映するように重み付けした全国補正値で、単純な人数比ではありません。
また、前回調査とは集計方法が異なるため、61.5%を過去の値と単純に比較する際には注意が必要です。それでも、長期的には自分の歯を多く残す人の割合が増えてきました。
自分の歯を長く使えることは望ましいことです。一方、歯を長く残せるようになったからこそ、歯肉退縮や露出根面を含めて管理していく必要があります。
根面う蝕を防ぐことは、これからの成人・高齢者の予防歯科で重要な課題です。
実際の虫歯の中にはどんな菌がいる?日本の22本の抜去歯研究

ここまで、広島大学の研究を中心に唾液中の細菌についてお話ししてきました。しかし、唾液中に存在する細菌と、実際に虫歯になった歯の内部に存在する細菌は、必ずしも同じ構成ではありません。
この違いを考えるうえで興味深い日本の研究があります。
歯冠部う蝕12本と根面う蝕10本を比較しました
2024年に『BMC Oral Health』に掲載されたGondoらの研究では、虫歯のある抜去歯22本から、う蝕象牙質を採取して細菌叢を解析しました。内訳は歯冠部う蝕12本、根面う蝕10本です。
こちらの研究では、唾液ではなく、実際に虫歯になった象牙質から細菌DNAを採取しています。
根面う蝕の方が、細菌叢が複雑でした
歯冠部う蝕では、Olsenella属、Lactobacillus属、Prevotella属の3つが優勢で、細菌叢の約70%を占めていました。
一方、根面う蝕でも同じ3菌属が優勢でしたが、構成比は約50%でした。さらに、根面う蝕の方が、細菌叢の種類の豊富さや複雑さが大きい結果でした。
ここでも、「細菌の多様性が高いほど健康」という単純な説明ができないことがわかります。どちらも実際の虫歯病変を調べた研究だからです。
Streptococcus属全体の割合は意外に低い結果でした
この研究でのStreptococcus属全体の平均相対存在割合は、歯冠部う蝕1.6%、根面う蝕3.0%でした。ただし、これはミュータンス連鎖球菌だけの割合ではありません。
また、すでに形成された虫歯病変内部の細菌叢から、虫歯が発生した最初の段階でどの菌が重要だったのかを直接判断することはできません。
比較した病変の状態と年齢にも違いがありました
この研究では、歯冠部う蝕12本のICDASコードは4〜6、根面う蝕10本はすべて根面用のコード1でした。ただし、歯冠部と根面のICDASコードは同じ尺度ではなく、数値だけで両者の進行度を直接比較できません。
また、対象者の平均年齢は歯冠部群44歳、根面群70歳でした。病変の状態だけでなく、患者集団にも違いがありました。
さらに、細菌叢内部の多様性を示すα多様性には有意差が認められた一方、細菌叢全体の試料間の違いを評価するβ多様性のPERMANOVAでは、有意な群間差は確認されませんでした。
したがって、今回見つかった違いを、歯冠部と歯根部という発生場所だけによるものと断定することはできません。
唾液検査だけでは病変内部の状態までわかりません
広島大学の研究は唾液の細菌叢を調べたものです。一方、Gondoらの研究は実際のう蝕象牙質を調べています。採取する場所が違えば、検出される細菌の構成が異なる可能性があります。
唾液検査は口腔内の状態を知るための一つの手がかりになりますが、特定の歯の表面や病変内部の環境を完全に代表するものではありません。だからこそ、唾液の情報と実際の歯の診査を組み合わせることが大切です。
歯ぐきの上と下でも菌が違う?新潟大学の根面う蝕研究

根面う蝕の細菌叢については、新潟大学からも興味深い研究が報告されています。
2022年に日本歯科保存学雑誌に掲載された竹中彰治先生の論文では、根面う蝕を伴う抜去歯22本を対象に、病変の存在部位による細菌叢の違いが紹介されています。
比較したのは、歯肉縁より上に存在する根面う蝕と、歯肉縁の上から下へ進展した根面う蝕です。
歯肉縁上型ではStreptococcus属が26.0%
歯肉縁上型では、Streptococcus属26.0%、Actinomyces属10.6%、Prevotella属7.6%、Lactobacillus属6.1%などが比較的多く存在していました。
一方、歯肉縁を越えて進展した病変では、Streptococcus属は4.5%でした。Prevotella属は11.1%、Fusobacterium属は9.6%で、歯周病変との関連が研究されている細菌群も特徴的でした。
Shannon多様性指数は、歯肉縁上型5.0±0.5、歯肉縁越境型5.8±0.6でした。
同じ根面う蝕でも、周囲の環境が違う可能性があります
著者らは、歯肉溝滲出液などの局所環境が、細菌叢の違いに関係している可能性を考察しています。
ただし、病変内部のpHを直接測定していないため、どのような環境変化が細菌叢の違いを生んだのかまでは証明されていません。
それでも、同じ根面う蝕でも、歯肉縁の上にあるものと歯肉縁下へ広がったものでは細菌叢の構成が異なる可能性があることは興味深い結果です。
これらの研究を通してわかるのは、口腔内の細菌を考えるときには、細菌の種類だけではなく、生息場所や周囲の環境を理解する必要があるということです。
年齢以外にも関係する?服薬と口腔乾燥の問題
口腔細菌叢には、年齢以外にもさまざまな要因が関係する可能性があります。その一つが、服用している薬です。
高年齢の患者さんでは、複数の薬を長期間服用していることがあります。薬の種類によっては、唾液分泌や口腔乾燥に影響することがあります。
日本の575人研究で見えた服薬の状況
2025年に『医療薬学』に掲載された慶應義塾大学などの研究では、特定の総合診療科で継続的な処方を受けていた高齢患者575人について、口腔乾燥を誘発する可能性のある薬剤の処方実態が調べられました。
その結果、464人(80.7%)に、口腔乾燥を誘発し得る薬剤が1剤以上処方されていました。さらに、その464人のうち294人(63.3%)には、該当する薬剤が2剤以上処方されていました。
ただし、この数字は特定の医療機関の処方対象者に関するものです。日本の高齢者全体の割合ではなく、薬が処方されていた人すべてに実際の口腔乾燥が起きていたという意味でもありません。
口腔乾燥に関係する薬は多くあります
2026年に『老年歯学』に掲載された新潟大学の総説では、医療用医薬品集2025に掲載された内用薬1,160種類のうち、619種類に口腔乾燥関連の副作用記載があったと報告されています。
薬剤による口腔乾燥には、抗コリン作用、神経系への作用、体液量への影響など、さまざまな仕組みが関係します。
今回の広島大学研究でも、高年齢群には降圧薬やコレステロール合成阻害薬などを服用している人が多かったと記載されています。ただし、今回の細菌叢の群間差が服薬によって生じたと証明されたわけではありません。
「口が乾く」と「唾液が少ない」は同じではありません
口腔乾燥感があっても、刺激唾液量が正常な場合があります。反対に、本人が強い乾燥感を自覚していなくても、唾液分泌が低下している場合も考えられます。
唾液の量だけでなく、粘膜を覆う唾液の状態、口呼吸、服薬、全身状態なども関係します。
この違いについては、以前の「口が乾くのに唾液は出ている?」でも詳しく紹介しています。
歯科衛生士が服薬内容を確認するのは、虫歯や口腔乾燥の背景を理解するためでもあります。
なお、口が乾くからといって、処方されている薬を自己判断で中止したり減量したりすることは避けてください。必要に応じて処方医と連携することが大切です。
歯の根元が茶色い――それだけで削る虫歯とは限りません

年齢を重ねた患者さんのメンテナンスでは、歯肉退縮によって露出した歯根面に、茶色や黒っぽい変色が見られることがあります。
そのような変色を見ると、「虫歯になっているのでは」「早く削った方がいいのでは」と心配になるかもしれません。
しかし、根面う蝕は色だけで進行しているかどうかを判断できるものではありません。
活動性根面う蝕と非活動性根面う蝕
根面う蝕には、現在進行している可能性が高い活動性病変と、進行が停止した状態にある非活動性病変があります。
活動性が疑われる病変では、表面が粗く、光沢が乏しく、触診で軟らかい状態などが見られることがあります。一方、非活動性の病変では、表面が滑らかで、光沢があり、硬い状態が確認されることがあります。
ただし、色や硬さ、光沢のどれか一つだけで自動的に判定するものではありません。病変の位置、深さ、形態、プラークの停滞状況などを総合して判断します。

日本歯科医学会の資料では、初期根面う蝕の診査方法が示されています
2024年3月、日本歯科医学会は「初期根面う蝕の管理に関する基本的な考え方」を公表しました。
この資料では、実質欠損の深さが0.5mm未満の歯根に生じたう蝕を初期根面う蝕と定義しています。検査では、色調、硬さ、表面性状、欠損の深さなどを確認します。
触診の際には、先端の鋭い探針を避け、CPIプローブや歯周プローブなどで慎重に調べることも示されています。病変の表面を不用意に傷つけないことも大切だからです。
根面う蝕の中には、削らずに管理できるものもあります
初期の活動性根面う蝕では、フッ化物などを利用して再石灰化を促し、進行を抑える非切削での管理が選択される場合があります。
もちろん、病変の深さや実質欠損の大きさ、清掃のしやすさ、進行状況などによっては修復治療が必要です。
「根面う蝕だからすべて削らずに管理できる」ということではありません。大切なのは、病変の活動性や進行状況に合った管理方法を選ぶことです。
根面う蝕は痛みがないまま進む場合もあります
根面う蝕については、もう一つ注意したいことがあります。それは、病変が進行していても、痛みなどの自覚症状が乏しい場合があるということです。
根面う蝕では、歯の表面に見える変色が小さくても、内部で病変が広がっている場合があります。
また、年齢を重ねた歯では、第二象牙質や第三象牙質の形成、象牙細管の変化、歯髄腔の狭窄などが起こることがあります。こうした変化によって、痛みに対する反応が以前とは異なる場合があります。
もちろん、すべての根面う蝕が痛みなく進むわけではありません。ただし、痛みがないことを理由に、歯の根元の変化を確認しなくてよいとは言えません。
歯科衛生士がメンテナンスの際に歯肉退縮や露出根面の状態を確認することには、このような意味もあります。
年齢を重ねた歯を守るために、今日からできること

ここまで、唾液細菌叢の変化、虫歯に関係する菌、歯根面の特徴などを紹介してきました。では、実際の予防では何をすればよいのでしょうか。
最初にお伝えしたいのは、今回の研究で高年齢群のミュータンス連鎖球菌レベルが高かったからといって、特別な殺菌処置を一律に追加すればよいという話ではないことです。
その人の口の中で何が虫歯のリスクになっているかを確認し、それに合わせて予防を組み立てることが大切です。
虫歯になりやすい場所を確認する
同じ人の口の中でも、注意したい場所は異なります。歯と歯の間、奥歯の溝、歯ぐきの境目、露出した歯根面、修復物の周囲などです。
歯ブラシが届きにくい場所には、必要に応じてデンタルフロスや歯間ブラシを使います。ただし、歯間ブラシは無理に太いものを押し込まず、歯間の形に合ったサイズを選ぶことが重要です。
また、歯肉退縮がある方が強い力で歯の根元を磨き続けると、歯肉や歯質に負担をかけることがあります。磨く力を強くするのではなく、適切な方法で清掃したい場所に届かせることを意識しましょう。
フッ化物配合歯磨剤を適切に使用する
日本の4学会合同の推奨では、6歳以上から成人・高齢者について、1,400〜1,500ppmFのフッ化物配合歯磨剤を使用する方法が示されています。
一般的な使用量の目安は、歯ブラシ全体に約1.5〜2cmです。就寝前を含めて1日2回歯を磨き、歯磨き後は歯磨剤を軽く吐き出します。うがいをする場合は、少量の水で1回にします。
フッ化物は、歯の脱灰を抑えたり、再石灰化を促したりする働きに関係しています。特に露出した歯根面がある場合には、毎日のフッ化物利用が重要になります。
歯磨き後のすすぎ方については、「歯磨き後は何回すすぐ?」でも詳しく紹介しています。
甘いものは、量だけでなく摂取する回数にも注目する
虫歯予防では、糖質を含む飲食物をどのように摂取しているかも重要です。
例えば、砂糖入りの飲み物を長時間少しずつ飲んだり、飴を繰り返し口にしたりすると、プラーク内で酸が産生される機会が増えます。酸性環境にさらされる時間が長くなると、歯の脱灰が進みやすくなります。
もちろん、摂取する回数だけでなく、糖質の総量も重要です。「1回にまとめれば大量に食べても問題ない」という意味ではありません。
糖質を含む飲食物をだらだらと摂取する習慣がないか、生活の中で改善できる部分がないかを考えてみましょう。
口腔乾燥がある場合は原因を確認する
口が乾く場合には、単に水を飲むだけでは十分に対応できないことがあります。服薬、全身疾患、脱水、口呼吸、唾液腺の状態など、さまざまな要因が関係している可能性があります。
必要に応じて歯科医院で相談し、原因に応じた対応を考えることが大切です。
根面う蝕には、非切削での管理が役立つ場合もあります
2026年7月、日本歯科保存学会は「根面う蝕の診療ガイドライン―非切削でのマネジメント―CQ4追加版」を公開しました。
このガイドラインでは、活動性根面う蝕に対するフッ化物配合歯磨剤と洗口剤の併用、5,000ppmF歯磨剤、38%フッ化ジアンミン銀、フッ化物バーニッシュなどが検討されています。
ただし、研究で有効性が示された方法と、日本国内で承認されている製品・使用目的は同じとは限りません。
例えば、海外で研究されている5,000ppmF歯磨剤は、日本国内で一般的に認可されている歯磨剤ではありません。また、フッ化物バーニッシュについても、日本での承認用途に注意が必要です。
そのため、海外研究の結果だけを見て、高濃度フッ化物製品を自己判断で使用することは勧められません。
フッ化ジアンミン銀には、病変が黒くなる特徴があります
38%フッ化ジアンミン銀(SDF)は、活動性根面う蝕の進行抑制などを目的として研究・使用されている薬剤です。
ただし、塗布したう蝕病変が黒色に変化するという重要な特徴があります。そのため、使用する際には、患者さんやご家族などに事前に説明し、同意を得る必要があります。薬剤が歯肉などの軟組織に付着しないよう注意することも大切です。
根面う蝕の管理は、病変の活動性、深さ、清掃状態、患者さんの生活状況などによって選択肢が異なります。
フッ化物配合歯磨剤や洗口剤の使い方については、以前の「1450ppmの歯磨き粉を使っていてもフッ素洗口は必要?」でも詳しく解説しています。
歯科衛生士は、虫歯菌の数字だけを見ているわけではありません

今回の研究を読んで、あらためて大切だと感じるのは、口の中の状態を一つの数字だけで判断しないということです。
ミュータンス連鎖球菌の検査レベルが高い。刺激唾液量が少ない。プラーク付着率が高い。過去に虫歯治療を受けた歯が多い。
こうした情報は、それぞれ虫歯リスクを考えるための手がかりになります。しかし、どれか一つだけで、その人の口の中のすべてを評価することはできません。
メンテナンスでは、前回からの変化も確認します
例えば、以前は歯ぐきに覆われていた歯根面が、新たに露出するようになったかもしれません。服用する薬が増え、口腔乾燥を感じるようになった方もいるでしょう。
生活環境が変わり、甘い飲み物を口にする機会が増えた方もいるかもしれません。歯磨きの回数は変わっていなくても、手の動かしにくさや、清掃しにくい場所が変化していることもあります。
こうした変化は、単独の唾液検査だけでは十分にわからない場合があります。
歯の表面や修復物の周囲も重要です
歯科医院でのメンテナンスでは、プラークの付着状態だけでなく、歯肉退縮、露出した歯根面、修復物の境目、う蝕病変の有無なども確認します。
初期の病変であれば、継続的な観察や非切削での管理が選択されることもあります。もちろん、病変の診断や治療の必要性は歯科医師が判断します。
歯科衛生士は、口腔内の観察、清掃指導、予防処置などを通じて、患者さんの状態を継続的に把握する役割を担っています。
続けられる予防方法を一緒に考えること
どれほど科学的に有効な方法でも、毎日の生活の中で続けられなければ十分に活かせません。
フロスが必要な場所があっても、使い方が難しければ続けにくいかもしれません。歯間ブラシを使う方がよい場所があっても、サイズが合わなければ歯肉を傷つける可能性があります。
フッ化物配合歯磨剤も、適切な濃度や量、すすぎ方を知って使うことが大切です。その患者さんの口腔内の状態や生活に合わせて、無理なく継続できる方法を考えていきたいと思います。
唾液の細菌を調べれば、将来の虫歯を予測できる?

今回の広島大学研究では、唾液細菌叢の特徴を利用して、将来の虫歯リスク評価につながる新しい方法を開発できる可能性が示されています。
唾液は、体に大きな負担をかけずに採取できるという利点があります。また、細菌の種類や構成だけでなく、遺伝子機能の特徴まで評価できるようになれば、従来の唾液検査とは異なる情報が得られるかもしれません。
ただし、現時点では大きな課題があります。
細菌叢に違いがあることと、虫歯を予測できることは別です
今回の研究では、若年群と高年齢群で細菌叢に違いが見られました。しかし、同じ人を数年間追跡し、最初の細菌叢の特徴によって新しい虫歯がどのくらい発生するかを調べたわけではありません。
そのため、今回の結果だけで「この菌が多い人は3年後に虫歯になる」と予測することはできません。また、唾液細菌叢の情報を追加することで、従来のう蝕リスク評価の精度がどの程度改善するかも、まだ検証が必要です。
将来の研究では何が必要なのでしょうか?
例えば、最初に唾液の細菌叢を調べ、その後数年間にわたって同じ人を追跡する研究が考えられます。
その間に新しい虫歯がどれくらい発生したのか、どのような細菌叢の特徴が関連していたのかを確認する必要があります。
さらに、年齢、食生活、服薬、残存歯数、露出根面、フッ化物の使用状況、過去の虫歯経験なども考慮した解析が求められます。
そのうえで、唾液細菌叢の情報が、従来のリスク評価に新しい価値を加えられるかを検証することが重要です。
将来、唾液を調べることで、今より詳しく虫歯リスクを評価できるようになるかもしれません。しかし、現在の段階では、細菌叢の違いが見つかったことと、将来の虫歯を正確に予測できる検査が完成したことを区別する必要があります。
今回の研究で、まだ明らかになっていないこと
今回の広島大学研究は、年齢の異なる2群について、唾液のう蝕リスク検査と細菌叢解析を組み合わせた興味深い研究です。一方、解釈にはいくつかの限界があります。
まず、横断研究であるため、加齢そのものが細菌叢の変化を引き起こしたとは証明できません。
また、若年群は矯正治療患者、高年齢群はインプラント治療やメンテナンス患者という違いがありました。細菌叢の詳細な16S解析を行ったのは340人全員ではなく、選ばれた88検体です。
参加者は少なくとも20本の歯を有していたため、残存歯が少ない人や要介護高齢者などに結果をそのまま一般化することもできません。
さらに、今回の研究では根面う蝕の新規発生や進行を直接調べていません。糖代謝に関する結果も遺伝子機能の予測であり、実際の酸産生量や糖消費量を直接測定したものではありません。
こうした限界があるからといって、研究の価値がなくなるわけではありません。
今回の研究は、年齢の異なる集団では、プラーク付着率や唾液の状態が単純に悪化するわけではない一方、細菌叢の構成や一部の機能に違いが見られる可能性を示しました。
その違いが、どのような経過で生じ、将来の虫歯発生にどの程度関係するのか。次に調べるべき課題が、より明確になったと考えられます。
まとめ――年齢だけで虫歯予防を決めないことが大切です
広島大学が340人の唾液や口腔内の状態を比較した今回の研究では、高年齢群でミュータンス連鎖球菌の検査レベルが有意に高くなっていました。
また、88検体の細菌叢解析では、若年群と高年齢群で細菌の構成に違いが見られました。
細菌の種類の豊富さに関する一部の指標は高年齢群で低かった一方、均等性を示す指標は高く、別の多様性指標には有意差がありませんでした。糖の取り込みや代謝に関係する遺伝子機能についても、群間差があると推定されました。
その一方、高年齢群ではプラーク付着率が低く、唾液の緩衝能は高くなっていました。刺激唾液量と総細菌数には有意な群間差がありませんでした。
つまり、今回の研究は、年齢を重ねると口の中のすべての状態が同じ方向に悪化するという単純な結果ではなかったのです。
虫歯に関係する細菌の検査レベル、プラークの付着率、唾液の分泌量、緩衝能、細菌叢の多様性は、それぞれ異なる情報を表しています。
そして、実際に虫歯が発生するかどうかは、細菌だけでなく、歯の状態、食生活、唾液、フッ化物、口腔清掃など、さまざまな要因が組み合わさって決まります。
年齢を重ねることで、歯肉退縮や服薬、全身状態、生活習慣など、口腔環境に関係する条件が変わることもあります。だからこそ、虫歯予防は年齢だけで一律に決めるのではなく、その方の口の中の状態に合わせて考える必要があります。
歯科衛生士として大切にしたいのは、虫歯菌の検査値だけを見ることではありません。
どこにプラークが残りやすいのか。
歯の根元は露出していないか。
新しい虫歯ができていないか。
唾液や口腔乾燥の状態は変わっていないか。
フッ化物を適切に使えているか。
そして、毎日の生活の中で、無理なく続けられる予防方法は何か。
こうしたことを一つずつ確認しながら、患者さんと一緒に歯を守る方法を考えていきたいと思います。
年齢を重ねたからといって、虫歯になることが決まっているわけではありません。
口の中の環境が変われば、それに合わせて予防の方法を見直すことができます。
今回の広島大学の研究は、細菌の数だけでは見えない口腔内の複雑さを教えてくれました。
これからも新しい研究に注目しながら、毎日のメンテナンスを通じて、一人ひとりの歯を長く守るお手伝いをしていきたいと思います。
よくある質問(FAQ)
Q1.年を取ると、必ず虫歯菌が増えるのでしょうか?
必ず増えるとは言えません。
今回の広島大学研究では、50歳以上の高年齢群でミュータンス連鎖球菌の検査レベルが高い結果でした。しかし、同じ人を長期間追跡した研究ではなく、年齢以外の条件も異なっていました。
また、唾液中の総細菌数には統計学的な有意差がありませんでした。そのため、すべての人で加齢によって虫歯菌が増えると断定することはできません。
Q2.唾液の量が正常でも、虫歯になりやすいことはありますか?
あります。虫歯の発生には、唾液量のほかに、糖質の摂取、プラーク、歯質、フッ化物の利用、露出した歯根面などが関係します。
また、刺激唾液量が正常でも、安静時唾液量や口腔乾燥感まで正常とは限りません。口の中の状態を総合的に評価することが大切です。
Q3.唾液検査をすれば、将来虫歯になるかどうかわかりますか?
唾液検査は、虫歯リスクを考えるための情報の一つになります。ただし、将来の虫歯を確実に予測できるものではありません。
今回の広島大学研究でも、新しい虫歯が何年後に何本できるかを追跡したわけではありません。過去の虫歯経験、清掃状態、食生活、フッ化物の使用状況、歯肉退縮なども合わせて考える必要があります。
Q4.歯の根元が茶色いのですが、削って治療する必要がありますか?
色だけでは判断できません。根面う蝕には、進行中の活動性病変と、進行が停止した非活動性病変があります。
歯科医院では、色だけでなく、表面の硬さ、光沢、欠損の深さなどを確認します。初期の病変ではフッ化物などによる非切削管理が選択される場合もありますが、病変の状態によっては修復治療が必要です。
歯の根元に変化が見られた場合は、自己判断せず歯科医院で確認しましょう。
Q5.歯磨きを頑張っているのに、虫歯菌の検査レベルが高かったらどうすればいいですか?
まず、菌の検査値だけで虫歯リスクのすべてが決まるわけではないことを知っておいてください。
歯磨きの方法、プラークが残る場所、糖質を含む飲食物の摂取頻度、フッ化物の使用状況、唾液の状態、露出した歯根面などを確認することが大切です。
必要な予防方法は患者さんによって異なります。歯科医院で現在の口腔内の状態を確認し、自分に合った予防方法を相談してみてください。
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